お薬について
治療に使われているお薬についての簡単な解説です。
1.抗精神病薬はどんなお薬ですか?
抗精神病薬
抗精神病薬は統合失調症の治療の中心となる薬で、主として脳内のドーパミン神経の活動を抑えることにより、幻覚や妄想、考えをうまくまとめられない、気持ちをうまく表現できない、意欲がわかないなどの症状を改善し、また再発を防ぐ効果があります。
抗精神病薬の主な効果と特徴
1.
幻覚や妄想を抑えるか少なくする
2.
興奮を抑える
3.
考えをまとめる
4.
気持ちや神経を和らげる
5.
意欲の減退を改善する
6.
再発を予防する など
※
長期間飲み続ける必要があります
統合失調症の薬物療法での注意点
一般に統合失調症の薬物療法は、抗精神病薬を何種類も併用するのではなく、なるべく シンプルに 1 種類を使って、量についても、効果が得られて副作用がなるべく少ない 用量に調整することが望ましいとされています。また、症状の調整に使われる薬につ いても、使わない、もしくはできるだけ少ない種類・量で、短期間の使用にとどめたほうが良いでしょう。医師とコミュニケーションをとりながら、あなたに合った薬物療法 を見つけていきましょう。
2.抗精神病薬にはどんなものがありますか?
抗精神病薬は、定型抗精神病薬(従来型)と非定型抗精神病薬(新規)とに分けられます。
定型抗精神病薬(従来型)
主に幻覚・妄想や考えをまとめられないといった陽性症状といわれる症状に効果があります。
主な副作用
錐体外路症状(手がふるえる、体が硬くなるなど、パーキンソン病様の症状)
プロラクチンの上昇(生理が止まる、乳房がはる、乳汁分泌、性欲がわかない、など)
のどの渇き、便秘、排尿障害、記憶障害、など
非定型抗精神病薬(新規)
陽性症状に効果があり、副作用の錐体外路症状(手がふるえる、体が硬くなる、など)が少なく、陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如など)に対する効果は定型抗精神病薬よりも高いといわれています。
また、認知機能障害への効果も期待できます。
※
新規抗精神病薬でも、錐体外路症状、プロラクチンの上昇、眠気、口の渇き、心電図の変化などの副作用が出る場合があります。
※
一部の薬剤については糖尿病の方には使用できません。
いろいろな剤形

抗精神病薬には同じ成分の薬でも異なった剤形があります。また最近では、1日1回でよい薬や、2~4週効果が続く注射剤を選ぶこともできますから、あなたの状態、生活状況、使いやすさや好みに合わせた選択をすることが可能です。 希望があれば主治医に伝えてください。
錠剤・カプセル剤・細粒剤/散剤(粉薬)
いわゆる飲み薬として一般的なものです。
口腔内崩壊錠(OD錠)・液剤(水薬/シロップ剤)・舌下錠
水なしでも飲むことができます。
注射剤
特に症状の激しい急性期など、効果を早く得たいときや内服が難しいときに筋肉注射や点滴で使われます。
持続性注射剤(LAI:Long-Acting Injection、デポ剤)

急性期に使われる注射剤とは異なり、注射した部位(筋肉内)に薬がとどまって徐々に血液に取り込まれていくため、即効性はありませんが、1回の注射で2~4週間効果が続きます。よく薬を飲み忘れる人や毎日の服薬にわずらわしさを感じている人などの助けになります。
※
薬によって、それぞれ剤形の種類は異なります。
症状の調整に使用される薬
抗不安薬
強い不安感や緊張感を和らげるために使います。作用時間や効き目の強さが異なるため、症状に合わせて処方されます。
睡眠薬(睡眠導入薬)
よく眠れない、寝つきが悪い、早朝に目が覚めてしまうなど、睡眠のリズムが狂ってしまう場合に使います。作用時間によって、長時間型、中間型、短時間型、超短時間型に分けられます。
抗不安薬や睡眠薬を使うときの注意点
抗不安薬や睡眠薬の多くは同じベンゾジアゼピン系の薬剤で、抗不安効果より睡眠効果が優位なものを睡眠薬として使用します。効果が早く現れる一方で、眠気や注意力の低 下といった副作用がみられることがあります。また、飲み続けると耐性や依存性が出たり、急に服薬を中止すると離脱症状(頭痛、手足のふるえ、眠れない、など)がみられる場合もありますので、医師と相談しながら使用してください。いずれも原則として短期間や頓服での使用がすすめられています。
抗うつ薬
うつ症状を呈する場合に、憂うつな気分を和らげ、意欲を高めるために使います。抗うつ薬には、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬)があります。
副作用を抑える薬
抗精神病薬の使用によって生じる副作用を抑えるため、次のような薬が処方されることがあります。
抗パーキンソン病薬
抗精神病薬によってドーパミンの働きが過剰に抑制されることにより生じる、手がふるえる、体がこわばる、足がむずむずするなど、パーキンソン病様の症状(錐体外路症状、抗精神病薬の働きとドーパミン参照)を和らげるために使います。
この薬は、副交感神経を刺激するアセチルコリンという神経伝達物質の働きを妨げることで錐体外路症状を改善しますが、一方で、口が渇く、便秘、おしっこが出にくい、認知機能低下などの副作用がみられることがありますので、これらの症状が気になる場合は、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう。
最近では、錐体外路症状を起こしにくい薬剤の選択や用量の調整によって、できるだけ抗パーキンソン病薬の使用を減らす治療が推奨されています。
便秘薬(緩下剤)
便通を良くするために使います。
抗精神病薬の働きとドーパミン
抗精神病薬はドーパミンの受容体を占拠して、ドーパミンが受容体に働いて次の神経細胞に情報を伝えるのを遮断することが主な作用機序と考えられています。


ドーパミンが関与する神経経路のうち、統合失調症の病態に関連しているのは➡(1) あるいは➡(2) の経路です。➡の経路の機能亢進は陽性症状(幻覚や妄想など)に、➡の経路の機能減退は陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如など)に関係しているといわれています。
また、➡(3)の経路は姿勢の維持や反射的な共同運動に、➡(4)の経路はプロラクチンという乳汁分泌ホルモンの分泌に関係しています。
定型抗精神病薬はドーパミン神経経路すべてを抑制してしまうため、➡の経路ではドーパミンの活動を低下させて陽性症状を改善しますが、➡の経路では減退しているドーパミンの活動をさらに低下させてしまいます。
また、投与量が増えると➡の経路の遮断により錐体外路症状(筋肉のこわばり、ふるえなど)がひきおこされ、➡の経路に働くとプロラクチンの分泌が増加して、生理が止まったり乳汁分泌がみられたりすることがあります。
非定型抗精神病薬の錐体外路症状が少ない理由として、以下の可能性が考えられています。
セロトニンと呼ばれる神経伝達物質を阻害することにより、セロトニンのドーパミン抑制を解除し、結果的にドーパミンを増加させる。またはドーパミン以外のいろいろな 神経伝達物質の受容体に作用するため、その総合的な作用によって。
従来の抗精神病薬に比べ、ドーパミン受容体にゆるやかに結合するため、もともと存在しているドーパミンの働きを阻止しすぎないため。
ドーパミンD2 受容体を完全に遮断せず、一部刺激するという作用(部分アゴニスト作用)をもち、ドーパミンが多すぎるときにはその作用を抑え、少なすぎるときには強めて、ドーパミンの機能をちょうど良いところに保つため。
3.薬の副作用
副作用とは、薬の本来の効果(主作用)以外の反応のことをいいます。本人にとっては不快なもので、日常生活にも影響が出る可能性があります。
副作用の出やすさは一様ではなく、薬剤の種類や患者さんごとに異なります。薬を使って、「何かいつもと違う」「副作用ではないか?」と感じることがあったら、我慢したり、恥ずかしがったりせずにすぐに主治医や薬剤師に相談してください。
薬の量や種類を変更することで、副作用が改善される場合があります。また、副作用を抑えるための薬を処方してもらうこともできます。
薬の調整は医師と相談しながら行います。自分の判断で服薬を中止するのは大変危険ですからやめましょう。

自己判断で服薬を中止するのはやめましょう。
主な抗精神病薬の副作用
錐体外路症状
ドーパミン神経の過剰な遮断によって、日常の動作が障害されてスムーズな体の動きができなくなります。

パーキンソン様症状
体がうまく動かない、手がふるえる、体が前かがみになって小刻みに歩く、など

ジストニア
目が上を向く、ろれつがまわらない、首が反り返る、体が傾く、など

アカシジア
足がむずむずする、絶えず歩き回る、足を落ち着きなく揺らす、など

ジスキネジア
無意識に口が動く、手足が勝手に動く
流涎(りゅうぜん)
よだれが多量に出る
悪性症候群
急に高熱(38℃以上)が出て下がらない、汗を多くかく、脈が速くなる、筋肉のこわばりが強くて動けない、意識がもうろうとするといった症状が現れることがあります。発症率は、抗精神病薬を使っている人の1%未満とまれですが、放置すると死に至る危険性もある重い副作用です。現在では有効な治療方法が確立していますので、速やかに受診して医師の指示に従いましょう。
体重が増える

抗精神病薬の中には、服用することで食欲を亢進させて体重を増やしてしまうものがあります。精神疾患にかかると、食生活や生活習慣が乱れたり、運動不足になることがありますので、日常の食事や運動などで体重コントロールを心がけましょう。
糖尿病
抗精神病薬の中には、糖尿病の人には使用できないものがあります。自分や家族が糖尿病を患っている人は、必ず医師に伝えてください。短期間に急激に体重が増えた、のどが渇く、砂糖を多く含む清涼飲料水をたくさん飲むようになった、おしっこの量・回数が増えた、などは糖尿病が疑われるため速やかに受診して検査を受けましょう。
脂質異常症(高脂血症)
患者さんの体質や抗精神病薬の特性によって、血清脂質値の異常が現れる可能性があります。脂質異常症は心臓病や動脈硬化の危険因子です。統合失調症の患者さんは、喫煙、肥満、糖尿病といった危険因子をすでにもっている場合がありますから特に注意が必要です。
統合失調症とメタボリックシンドローム
精神疾患にかかっているとメタボリックシンドローム(メタボ)になりやすいことが知られています。病気のために食生活や生活習慣が乱れがちになったり、健康への関心が低下してしまったり、また、抗精神病薬の中にはメタボを引き起こす可能性のあるものもあります。
定期的に体重を測定したり、血液検査を受けて、メタボチェックを続けましょう。
〈参考〉メタボリックシンドロームの診断基準

生理不順になる、乳汁が出る

「高プロラクチン血症」と呼ばれ、プロラクチンというホルモンの値が高くなることがあります。ホルモンのバランスが妊娠時のような状態になり、女性では生理が止まってしまうことがあります。また、男性の場合には乳房が大きくなったり痛んだりすることがあります。
勃起しない、性欲を感じない(性機能障害)

男性であれば勃起しない、女性であればオルガスムスを感じないといった症状が現れる場合があります。
ぼーっとする、いつも眠い、体がだるい(過鎮静)

薬がもつ興奮を静める作用が強すぎるときに起こると考えられます。発病後間もない急性期には、症状を抑えるために強い薬が使われることが多いので、ぼーっとすることがありますが、長く続く場合は日常生活や社会復帰を考える上でマイナスになります。
口が渇く(口渇)

副交感神経系の働きを阻害するため、唾液が出にくくなって、口やのどが渇いてしまう場合があります。渇きを和らげようと大量の水を飲みたくなるという異常な行動が引き起こされ、「水中毒」と呼ばれます。水中毒になって過剰な水分を摂取していると、むくみや疲労感、頭痛、嘔吐などの症状が現れたり、重篤な場合には、けいれんや昏睡、呼吸困難を引き起こして死に至ることもあり、注意が必要です。主治医に相談して薬を調整してもらいましょう。また、適度な水分をとる、キャンディをなめる/ガムをかむ、うがいをする、氷をなめる、などの工夫でも症状を軽減できます。
便秘

便秘は、抗精神病薬や抗パーキンソン病薬などの使用によりよくみられる副作用です。下剤の服用以外にも、繊維質が多い食べ物(野菜や海藻)を取り入れた食事をすること、日常的に適度な運動を行うこと、規則正しい生活を送ることなどで改善する場合もあります。 重い便秘症になると、(イレウス)になることもありますので、便秘が続くようであれば主治医に相談してください。
立ちくらみ、血圧低下(起立性低血圧)
立ち上がる際に血圧が下がって目がくらむことがあります。
4.服薬について
統合失調症は再発しやすい病気です。症状がなくなったように思っても、服薬をやめると再発の可能性が高くなり、入院のリスクが高まることが知られています。また、再発を繰り返すと症状が悪化し、回復しにくくなります。 主治医の指示に従って、規則正しく服薬を続けましょう。
<参考>服薬中断期間と入院のリスク


規則正しい服薬のために
服薬継続の大切さはわかっていても、「つい飲み忘れてしまう」「服薬回数や薬の数が多くて飲みづらい」「副作用がつらい」などの場合には、一人で悩まずに、医師や薬剤師、医療スタッフに話してみましょう。あなたが服薬を続けやすい方法や薬の種類・剤形について相談に乗ってくれます。
規則正しい服薬方法の工夫

食事や歯みがきなどの日常習慣を結びつける
ピルケースを使う
目につきやすい場所に薬を置く
カレンダーにチェックする など
※
飲み薬の代わりに持続性注射剤(LAI)を使うという方法もあります。
すまいるナビゲーターには、登録した薬の服用時間にメールで知らせてくれる「すまいるメール」など、治療の継続に役立つ情報を掲載しています。ぜひご活用ください。

服薬時に注意すること
喫煙…すすめられません
ニコチンには、肝臓の酵素を活性化して、薬の分解、排出を促進させる作用があり、薬の効果が低下することがあります。喫煙がやめられない場合には、主治医に相談して喫煙の影響が少ない抗精神病薬を選んでもらいましょう。
アルコール…避けてください
抗精神病薬をアルコールと一緒に飲むと、肝臓のもつアルコールを分解する働きと、薬を分解する働きがお互いに邪魔し合って、眠気やふらつき、立ちくらみなどの副作用が起きやすくなります。また、薬の効果を不安定にして、症状の再発や増悪をもたらすなどの影響があります。

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