うつ病ABC

うつ病早わかりガイドです

1.うつ病とは?

うつ病は、気分が強く落ち込み憂うつになる、やる気が出ないなどの精神的な症状のほか、眠れない、疲れやすい、体がだるいといった身体的な症状が現れることのある病気で、気分障害*1の一つです。気分障害は大きく「うつ病性障害」と「双極性障害(躁うつ病)」に分けられ、いわゆる「うつ病」はうつ病性障害のなかの「大うつ病性障害」のことです。うつ病では気分が落ち込んだり、やる気がなくなったり、眠れなくなったりといったうつ状態だけがみられるため「単極性うつ病」とも呼ばれますが、一方の双極性障害はうつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返す病気です(詳しくは「双極性障害ABC」をご参照ください)。

単極性うつ病と双極性障害

*1

アメリカ精神医学会による「精神疾患の分類と診断の手引改訂第4版」(DSM-IV-TR)による分類です。詳しくは「うつ病の診断基準」をご参照ください。

「気分」と「病気」の違い

日常生活の中で憂うつになったり、気分が落ち込んだりといった感情の波はだれでも経験することでしょう。人間関係が思うようにいかなかったり、仕事や受験で失敗してしまったり、大切な人や可愛がっていたペットとの別れなどが原因で、悲しくつらい気持ちになることはごく一般的な感情の変化です。そのような落ち込んだ気分は、原因が解消されたり、気分転換をしたり、ある程度時間が経過したりすることで次第に癒され回復していくものです。

でも、うつ病の場合には気分が落ち込むような明らかな原因が思い当たらないこともあり、たとえ原因となっていた問題が解決しても気分が回復せず、仕事や学校に行けなかったり動くことができなかったり、日常の生活に大きな支障が生じるので治療が必要になります。

気分障害(双極性障害を含む)
患者の男女比

うつ病患者の男女比

厚生労働省の調査によると、気分障害(双極性障害を含む)の方の患者数はおよそ100万人で、男女別でみると女性のほうが男性よりも1.6倍多いという結果が示されています(厚生労働省「患者調査」)。ただし、この患者数には病院を受診していない方は含まれていないため、実際にはもっと多くの方がうつ病をはじめとする気分障害に苦しんでいると考えられます。

また、日本におけるうつ病の生涯有病率(調査時までに病気にかかったことのある人の割合)は6.7%で、およそ15人に1人がうつ病を経験*2している計算になりますから、けっして珍しい病気ではなく、だれでもかかる可能性があります。

*2

厚生労働科学研究費助成こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」

うつ病になりやすい気質やうつ病を引き起こすきっかけ

うつ病になりやすい性格

うつ病がなぜ、どのように起きるのかについてはまだよくわかっていませんが、感情や意欲は脳が生み出すもので、その働きになんらかのトラブルが起きていると考えられます。具体的には、脳の神経細胞同士でやり取りされる神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン)のバランスの乱れが関係している可能性があります(詳しくは「脳科学から見たうつ病」をご参照ください)。

神経伝達物質の量だけでなく、うつ病になりやすい気質(性格)やうつ病を引き起こすきっかけとなるストレス(環境変化)があり、それらが組み合わされることでうつ病が起きると考えられています。

うつ病になりやすい気質(性格)としては、生真面目、完璧主義、自分に厳しい、凝り性、気を遣うなどがあげられ、そのような性格のためにストレスを受けやすいと考えられます。

また、学校や社内でのいじめ、受験や仕事での失敗、失恋や離婚、家族や親しい友人との死別といった悲しい出来事だけでなく、結婚や妊娠・出産、昇進・栄転、進学・就職、家の新築や引越しなど、喜ばしい出来事であっても環境が大きく変わることでストレスが生じ、うつ病を引き起こすきっかけとなることが知られています。

自分でチェックしてみましょう

チェックシート

上記の5項目のうち、当てはまるものをチェックしてみましょう。2つ以上該当していて、それが2週間以上、ほとんど毎日続いていたり、日常生活に支障があったりする場合にはうつ病の可能性があります。心配な場合には精神科や心療内科を受診してみましょう。

2.うつ病の症状

うつ病では気分の落ち込みや意欲の低下、不安・イライラなどの精神的な症状がみられます。そのほかに、体のだるさや痛み、しびれなどの身体的な症状がみられる場合があります。

精神症状

精神症状

身体症状

身体症状

3.うつ病の検査・診断

うつ病でかかる診療科

うつ病かなと思ったら、なるべく早めに病院やクリニックで診てもらうことが大切です。うつ病の場合、「精神科」や「心療内科」、「メンタルクリニック」、「こころのクリニック」などで診察を受けることができます。これまで「精神科」や「心療内科」などを受診されたことがない方は不安に感じるかもしれませんが、普段、風邪を引いた時にかかる内科とほとんど変わりません。ただし、予約制のところが多いので、あらかじめ電話して聞いてみるといいでしょう。また、初めて受診する際には問診票の記入に少し時間がかかりますので、予約時間よりも少し余裕を持って出かけるようにしましょう。

うつ病でかかる診療科

診察室では、先に記入した問診票をもとに医師からどんな症状に悩んでいるのか、またその症状はいつ頃からあるのか、家族に同じ症状の方はいないかなどについて質問を受けることになります。うつ病に限らず、精神科の病気は糖尿病や高血圧などのように、血液検査や尿検査、血圧測定などの数値で診断できるものではありませんから、現在の状況を含む詳細な問診が重要となります。うつ病では本人が思うように説明できないこともありますから、できれば一緒に生活する家族や本人の生活をよく知る方が付き添って受診するとよいでしょう。

うつ病の診断基準

現在、うつ病の診断基準にはアメリカ精神医学会による「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル*1」と世界保健機関(WHO)による「疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版」(ICD-10*2)の2つが用いられています。ここではDSM-5の診断基準についてみてみます。

DSM-5によれば、うつ病は「抑うつ障害群」という病気の一つに分類されており、「大うつ病性障害」とも呼ばれます。下記の9つの症状のうち1または2を含む5つ以上の症状があり、それが2週間以上続いている場合に「うつ病」と診断されることになります。

うつ病の診断基準

*1

The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition

*2

International Statistical Classification of Disease and Related Problems, 10th edition

うつ状態を引き起こすその他の病気

うつ病以外の病気でもうつ状態が引き起こされることが知られており、双極性障害、気分変調症、適応障害、不安障害、統合失調症などの精神疾患、脳血管障害や認知症、甲状腺機能障害、全身性エリテマトーデス、消化器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、糖尿病などの身体疾患があげられます。ほかにも、インターフェロンやステロイド剤などの薬の副作用でうつ状態になることがあります。いずれにしても、うつ状態は放っておかずに早めに診察を受けることが大切です。

身体症状が精神症状より目立つことも

うつ病というと、気分の落ち込みや憂うつ感をはじめとする精神的な症状がよく知られていますが、体のだるさや痛み、しびれなど、一見うつ病とは関係ないような身体的な症状が目立つ場合もあります(詳しくは「うつ病の症状」を参照してください)。内科や整形外科などで診てもらったけれど検査結果には異常がないので原因がよくわからず、いくつかの病院で診てもらううちに精神科や心療内科の受診を勧められるというケースも少なくありません。
なにか気になる症状がある場合には、速やかに精神科や心療内科を受診して医師に相談してみましょう。

4.うつ病の治療

うつ病治療の四本柱

うつ病は脳の病気ですから治療しないと悪化して治りにくくなったり、その後の社会生活に大きな悪影響を与えてしまったりしますので、なるべく早く治療を開始することが大切です。
うつ病治療の四本柱は「休養」「環境調整」「薬物治療」「精神療法」です。

休養・環境調整

十分な休養をとって心と体を休ませることはうつ病治療の第一歩です。職場や学校、家庭などで受けるストレスを軽減できるように環境調整をしてみましょう。たとえば、職場での配置転換や残業時間を短縮してもらったり、家事を分担して手伝ってもらったりするとよいでしょう。

休養・環境調整

うつ病になる方の性格的な傾向として、生真面目で責任感があり自分に厳しい方が多いので、休養をとったり、環境調整をお願いしたりすることで職場や家族に迷惑をかけてしまうのではないかと考えてしまうかもしれませんが、焦らずに休養をとって、自分のできることを無理なくできる環境を作ることが回復への早道となります。主治医に相談の上、職場の上司や同僚、担任の先生、家族にお願いしてみましょう。

また、うつ病の症状としてなかなか寝付けない、あるいは早朝に目が覚めてしまうといった「睡眠障害」や「食欲不振」を訴える方が多くみられます。規則正しい十分な睡眠とバランスのとれた食事は、健康な心と体を取り戻すためには欠かせませんから、そのような症状がある場合には医師に相談してみましょう。

薬物治療

うつ病の治療には休養や環境調整とあわせて薬による治療が欠かせません。現在、日本で用いられているおもなうつ病治療薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)と呼ばれる「抗うつ薬」です。そのほかにも患者さんの症状に合わせて「抗不安薬」「睡眠導入薬」「気分安定薬」「非定型抗精神病薬」などが使用されます。

薬物治療

人によって効果に違いはありますが、うつ病の治療薬は飲んですぐに効果が現れるものではなく、焦らずに服薬を継続する必要があります。また、勝手に薬の量を増やしたり減らしたり中断したりすると、副作用が起きる可能性がありますので、かならず主治医の指示に従って服薬するようにしましょう。詳しくは「お薬について」をご覧ください。

精神療法

精神療法

十分な休養・環境調整と薬物治療を組み合わせることでうつ病はかなり回復するといわれていますが、うつ病の原因となったストレスを振り返って対処法を学んで調子の良い状態を維持し、再発を防ぐ目的で行われるのが精神療法です。もっとも一般的なものに「認知行動療法」と「対人関係療法」があります。

うつ病になりやすいといわれている生真面目で責任感のある性格は、常識的で社会性があり本来好ましいものですが、いいかえれば、仕事などで手を抜くことができず完璧を求めてしまったり、過度に自分を責めてしまったりするためにストレスを感じやすい性格ということができます。

認知行動療法

なにか困った事にぶつかった時に起こりがちな悲観的な物事の捉え方や考え方のくせを改善することで、マイナス思考がうつ状態を悪化させる悪循環を断ち切る方法を学びます。

対人関係療法

うつ病を引き起こす要因となった対人関係の問題を解消することで、ストレスを軽減させる目的で行われます。
対人関係が改善されると周囲の人にも受け入れられやすくなるので、回復に向けたサポートが受けやすくなるというメリットもあります。

これらの精神療法は薬物治療とあわせて行うことで効果を発揮します。精神療法の実施にあたっては、それぞれの患者さんに応じて実施時期や内容が異なりますから、医師の指示に従いましょう。

その他の治療

うつ病の治療には上記のほかにも下記のようなさまざまな治療法があります。

運動療法

心臓に負担にならない程度の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)を行う治療法で、薬物治療と組み合わせて行います。

高照度光療法

非常に明るい光(2500ルクス以上)を1日1〜2時間程度照射する治療法です。

修正型電気けいれん療法(m-ECT)

全身麻酔と筋肉けいれんを抑える薬を使用して、脳に数秒間の電気刺激を与える治療法です。重篤な場合や深刻な焦燥感、強い希死念慮(死にたいと思う気持ち)がある場合、副作用などの理由で薬物治療が難しい場合などに用いられます。

経頭蓋磁気刺激法(TMS)

特殊な機械で磁場を発生させ、そこで生じた誘導電流で神経細胞を刺激する方法です。

治療を続けていてもなかなかよくならないと思っている方へ

うつ病治療ではしっかり休養をとりながら、主治医の指示どおりに抗うつ薬を十分な量(それぞれの薬に定められた最大用量)、十分な期間(半年以上)服用することが必要です。早期に抗うつ薬を減らしてしまったり、飲むのを止めてしまったりすると、症状が改善しないまま慢性化してしまうことがあります。

どうしてよくならないの?

抗うつ薬による治療で症状が改善する方は約50%、寛解(症状がなくなること)する方は全体の約30%*1というデータがありますから、主治医の指示どおりに抗うつ薬による治療を続けていてもなかなかよくならないと感じている方は決して少なくありません。ただし、これは1種類の抗うつ薬で治療した場合のデータですから、「自分のうつ病は治らない」と悲観的になる必要はありません。薬の効果には個人差がありますし、抗うつ薬にはさまざまな種類があり効き方も異なりますので、別の抗うつ薬を試してみると効果がみられることがあります。 主治医と相談の上、うつ病は治ると信じて焦らずに治療を続けましょう。

それでも効果が感じられない場合は、そのうつ症状がうつ病以外の病気によるものである可能性を疑ってみる必要があります。なかでも双極性障害のうつ状態はうつ病と同じ症状が現れますが、治療薬は異なりますので注意が必要です。何年前のことでも構いませんので、これまでに躁状態(気分が高揚し、ハイテンションで、怒りっぽく、普段の調子を超えて活動的になった時期が数日以上続いたなど)になったことはなかったか、一緒に生活する家族にも聞いてみて、思い当たることがある場合には主治医に伝えるようにしましょう(詳しくは「双極性障害ABC」をご参照ください)。

*1

Trivedi,M.H.et al.:Am.J.Psychiatry,163(1),28-40,2006

治療抵抗性うつ病と増強療法

抗うつ薬による適切な治療を行っても改善しないうつ病は、治療抵抗性うつ病(狭義の遷延性うつ病)と呼ばれています。その場合、抗うつ薬と非定型抗精神病薬を組み合わせる治療法が効果を発揮することがあります。これは増強療法と呼ばれる治療法で、抗うつ薬による適切な治療を行なっても十分な効果が認められない場合に用いられ、抗うつ効果を高める効果が期待できます。主治医に相談してみましょう(増強療法に使用する薬については「抗うつ薬の効果を高める薬  <増強療法>」をご参照ください)。

治療抵抗性うつ病と増強療法

5.うつ病の発症から回復までの流れ

「回復に向けて」はこちらもお読みください

うつ病は診断を受けてから回復するまでに時間がかかるのが一般的で、その過程は、急性期・回復期・再発予防期の大きく3つの段階に分けられます。それぞれの期間は人によって異なりますが、ここではごく典型的な経過と目安となる期間を紹介します。

回復に向けて知っておいて欲しいことはこのコンテンツとは別に「回復に向けて」のコーナーで紹介しています。
そちらも合わせてご覧ください。

急性期(診断~3カ月程度)

うつ病の診断を受けてから、十分な休養をとりながら適切な薬物治療を開始することで、1~3カ月ほどで症状が軽快(症状が軽くなること)するのが一般的ですが、人によっては半年以上かかるケースもあります。抗うつ薬による治療は少量から様子をみながら開始し、徐々に増量して治療に必要な量を処方することになります。効果が現れるまでには時間がかかりますから、焦らないで薬物治療を継続してください。急性期は休養がなによりも大切ですので、主治医の指示に従って、できるだけストレスの原因から離れて休養に専念しましょう。

回復期(4~6カ月以上)

焦らずに治療を続けよう

回復期には、調子がよい日の翌日にまた悪化するといったように症状が波のように上下しながら一進一退を繰り返し、徐々に改善していきます。調子のよい日が続いたからといって、「もう治った!」と勝手に判断して無理をしたり、薬を止めてしまったりすると、症状が悪化して回復までに余計に時間がかかってしまうこともあります。焦ることなく薬物治療を続けましょう。
休職して治療を続けている方はある程度調子がよくなると職場復帰を焦りがちです。急性期よりもだいぶ気分が楽になって家庭でゆっくり過ごすことはできますが、職場に戻って以前のように働きはじめるには時期尚早です。少しずつ、無理のない程度に散歩をしたり図書館に行ってみたり昼間の活動量を増やしながら、生活リズムを整えていく時期です。また、うつ病になった当時のことを振り返ってみて、再発を防ぐためにはどうしたらよいか、主治医と話し合いながら社会復帰後の過ごし方について考えておきましょう。
復職にあたってはリワークプログラムなどを利用して、徐々に就業リズムに体と心を慣らしていくとよいでしょう(詳しくは「社会復帰に向けて」を参照ください)。復職してもしばらくの間は就業時間を減らしたり、負担の少ない部署に配置転換してもらったり、職場での協力は欠かせませんから、主治医と復職の相談をする際には上司にも同席してもらえることが理想です。主婦の方が家事に復帰する際にも復職と同様に段階的に少しずつ仕事量を増やすようにします。同居する家族にも協力してもらいながら、無理なくできることを少しずつこなしていくようにしましょう。

再発予防期(薬物治療:1~2年)

回復期を過ぎ、症状が安定して社会復帰を果たすことができても、まだまだ油断はできません。うつ病は再発しやすいという特徴があるため、回復期を過ぎても1~2年間は薬物治療を継続してうつ病の再発を予防しながら調子のいい状態を維持する必要があります。勝手に薬を飲むのを止めてしまうのは禁物ですが、飲み忘れにも注意が必要です。
薬を止める際には、かならず主治医の指示に従ってください。自分の判断で急に薬を飲むのを止めてしまったり薬の量を減らしてしまったりすると、めまいやふらつき、吐き気、嘔吐、倦怠感などが生じるおそれがあるからです。

そして、うつ病になってしまった原因をもう一度考え直して、環境調整を心がけましょう。また、調子が悪くなりはじめる際にどんな症状(サイン)がみられるか、家族や周囲の人たちと話し合っておくことも大切です。再発のサインは人それぞれですが、気分の落ち込みやイライラ感、不眠など、はじめにうつ病になった時の症状とほぼ同じです。自分では気づかない再発のサインが出ていた時に注意してもらえるようお願いしておくとよいでしょう。

焦らずに治療を続けよう

治りにくいケースについて

上記でみてきたのはうつ病の典型的な経過です。人によっては治療を行ってもなかなかうつ症状が改善しなかったり、いったん症状改善(症状がなくなること)したものの容易に再発してしまったりするケースがあり、「治療抵抗性うつ病」と呼ばれます。「治療抵抗性うつ病」の定義は難しいのですが、十分な量の抗うつ薬を十分な期間服用してもうつ症状がよくならないうつ病ということができます。治療抵抗性うつ病の原因はわかっていませんが、抗うつ薬に抗精神病薬を組み合わせた治療法で効果が認められています。なかなかうつ病が治らないと思っていてもあきらめず、あなたに合った治療法について主治医と相談してみましょう。

6.日常生活で気をつけること

うつ病の再発を防ぐためには、うつ病を発症する引き金となったストレスを避けることが大切です。ここでは日々の生活の中でできるうつ病の再発を防ぐポイントや気をつけたいポイントを整理しておきます。

1 十分な睡眠を心がける

十分な睡眠を心がける

睡眠は、うつ病予防に限らず、脳と体を休ませて健康な生活を送るために欠かせません。規則正しい睡眠・覚醒リズムを保つため、就寝時間と起床時間をできるだけ一定にするよう心がけましょう。寝付けなかったり、早朝に目が覚めてしまったりする場合にはすぐに主治医に相談してみましょう。

2 自分の性格や考え方を知る

自分の性格や考え方を知る

うつ病になりやすい方には生真面目、完璧主義、自分に厳しい、凝り性、気を遣うなどの性格がみられることが知られています。すべての仕事に手を抜かず、完璧なものを求めて頑張りすぎてしまったり、疲れを感じても「甘えてはいけない」「他の人の迷惑にならないように」と自分を追い込んでしまったりすることは再発の危険性を高めてしまいます。自分の性格を理解して、無理が重ならないようにコントロールすることが大切です。

3 休養をとる

休養をとる

忙しさのあまり休みをとらないでいると、ストレスが溜まってうつ病を再発する危険が高まります。意識的に休養をとって、ストレスを発散させるようにしましょう。自分が心から楽しめる趣味をもつことも一つの方法です。

4 体のリズムをつくる

うつ病になるとよく眠れなかったり、引きこもりがちになったりするので体のリズムが乱れてしまいがちです。体内時計は25時間でリズムを刻んでいますが、起床後、日光を浴びることで1日24時間の周期とのずれが調整されます。なるべくいつも同じ時間に就寝・起床するようにして、朝起きたら部屋のカーテンを開けて日光を浴びるよう心がけましょう。毎日、規則正しく食事をすることもリズムを整える上で効果的です。

5 栄養バランスのとれた食事をする

栄養バランスのとれた食事をする

食事は睡眠と並んで生きるために欠かせないものです。栄養バランスのとれた食事を心がけ、自分の体をいたわってあげる習慣を身につけましょう。

6 アルコールは控える

適度なアルコール摂取はストレスを発散させる効果が期待できますが、過度の飲酒は依存症を引き起こす危険性がありますので注意しましょう。

7 自動車の運転に注意する

うつ病の急性期には集中力や判断力が低下するため自動車の運転や機械の操作は避けたほうがいいでしょう。うつ病治療に用いられる薬の中には服用中の自動車運転を禁止しているものも少なくありませんから、不安な場合には主治医や薬剤師に相談してみましょう。

8 適度な運動を心がける

適度な運動を心がける

適度な運動はストレスの発散に役立つほか、食欲を増進させ睡眠の質を高める効果も期待できます。ただし、過度な運動は逆にストレスになることがありますから、ウォーキングやストレッチなど、自分の体力に合わせて無理なく続けられる運動がいいでしょう。

9 一人で悩まない

一人で悩まない

困ったことや不安に思うことがあれば一人で悩まずに、家族や友人、主治医に相談しましょう。自分だけではどうしようもないと思える問題でも、他の人に相談してみると解決のヒントが得られたり、それだけで気持ちが楽になったりするものです。また、調子の悪い時には重要な決断を避けて、結論を先延ばしするようにしましょう。

7.女性のうつ病

女性のうつ病

うつ病は男性に比べ女性に多くみられる病気です。その原因はまだよく分かっていませんが、月経周期や妊娠など、女性特有のホルモンの変動が関係していると考えられています。また、近年は女性の社会進出が著しく仕事上のストレスが増大している一方で、男性優位の価値観もまだ根強く残っており、就職や結婚、出産、子育てなどのライフイベントを通じて女性が会社や家庭から受けるストレスもうつ病を引き起こす要因の一つと考えられます。ここでは女性のうつ病について、ライフステージに沿ってみてみましょう。

うつ病を引き起こす要因

思春期の女性のうつ病

思春期の女性のうつ病

思春期は情緒が不安定になりやすい年代です。女性らしい体に変化するこの時期、初潮とともにエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの分泌量が急激に増加しますが、ホルモンを分泌する卵巣が未成熟なのでホルモンバランスを崩しやすく、それがうつ病発症の一因と考えられています。この時期のうつ病は、気分の落ち込みや意欲の低下だけでなく怒りっぽくなったり、反抗的になったり、暴力的(自傷行為を含む)になったり、ほかの時期のうつ病とは違った症状がみられることもあります。うつ病が不登校や引きこもりの原因になっていることもあり、注意が必要です。心配な場合にはかかりつけの医師や児童相談所、保健所などに相談してみるとよいでしょう。

女性ホルモン(エストロゲン)の変化

女性ホルモンの変化

また、うつ病とは異なりますが、月経の10日~数日前から腰痛や腹痛、乳房痛、むくみ、便秘、下痢、吐き気などの身体症状やうつ状態、イライラ感、不安感、過眠などの精神症状が出ることがあり、これは「月経前症候群」(PMS)と呼ばれます。ほとんどの方は症状が軽く、月経がはじまると次第に治まっていきますから日常生活に大きな支障を来すことはありません。 一方、1年以上、月経周期ごとに強い精神症状が起きて仕事や生活に影響がある場合、「月経前不快気分障害」(PMDD)と診断されることがあります。これは10代~20代に発症することが多く、PMSと同様の身体症状が現れますが、社会生活に支障を来すほどの強い精神症状が特徴です。月経開始とともに症状が軽くなる点がうつ病*1と異なります。PMDDの原因はまだよくわかっていませんが、閉経すると起こらなくなりますから、性ホルモンの異常が関連している可能性があります。PMSとは違い、PMDDは病気です。治療が可能ですから、「月経が始まれば楽になるから」と我慢せずに婦人科や精神科で相談するようにしましょう。

*1

2013年5月に発表されたアメリカ精神医学会の「精神疾患の分類と診断の手引 改訂第5版」(DSM-5)では、PMDDは「うつ病性障害」(depressive disorders)に含まれています。

妊娠・出産・子育て中のうつ病

妊娠・出産・子育ては女性にとって大きなライフイベントの一つですが、妊娠期や出産後(産褥期)はうつ病にかかりやすい時期でもあります。

妊娠期のうつ病

妊娠期のうつ病

妊娠期のうつ病有病率(ある時点で病気にかかっている人の割合)は6.5~12.9%*1といわれていますから、8~12人に1人が経験していることになります。妊娠初期に多くみられ、心理社会的要因(社会的サポートが不十分、予期せぬ妊娠、パートナーとの関係性など)が関わっていると考えられています。妊娠期のうつ病は、「産後うつ病」の危険因子と考えられているため、注意が必要です。出産をひかえた大事な時期ですから、簡単なセルフチェックを試してみて、不安や心当たりがある場合にはなるべく早く産婦人科や精神科で相談してみましょう。

*1

Gavin, N.I. et al. : Obstet Gynecol. 106, 1071-1083, 2005

マタニティ・ブルーと産後うつ病

出産後、ホルモンバランスが崩れ、軽い焦燥感、不眠、食欲不振、疲労、頭痛、涙もろいなどのうつ症状がみられるのは「マタニティ・ブルー(ズ)」と呼ばれ、通常1~2週間程度で治まります。しかし「産後うつ病」はより重く、入院が必要になるケースが多いのが特徴です。産後3~6カ月以内に10~20%の方にみられ、その要因には生物学的要因と心理社会的要因が考えられています。 生物学的要因として、ホルモンバランスの大変動があります。妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンというホルモンが増加しますが、分娩によってこれらのホルモン量は急激に低下します。また、乳汁の分泌を促進するホルモンであるプロラクチンも、出産直後に一旦減少しますが、その後、授乳によって急激に上昇することが知られており、これら産後の性ホルモンの変動がうつ病と関連していると考えられています。

妊娠中および産褥期の血中女性ホルモンの変動

妊娠期間中の女性ホルモンの変動

一方の心理社会的要因としては、出産後の「母親」「育児」などの新たな役割への戸惑いや不安、夫やその他の家族との関係、経済状況、場合によっては出産に至る経緯(望まれる出産だったかどうかなど)などのストレスがあります。
うつ病でもっとも注意が必要なのは自殺ですが、産後うつ病の場合には子どもへの虐待や子どもを道連れにした母子心中に発展してしまう恐れがありますから、早期に発見して治療を開始することが必要です。過去にうつ病になったことがある場合、特に産後うつ病になったことがあると、発症リスクが高まると考えられています。うつ病の既往がある場合には、産婦人科の主治医の先生にもそのことを伝えておきましょう。産後うつ病を早期に発見する方法としては、イギリスで開発された「エディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)」があります。産後の1カ月検診や新生児訪問時などに実施されている信頼性の高いテストですから、チェックしてみるとよいでしょう。ただし、正確な産後うつ病の診断には精神科を受診する必要があります。テストのスコアに関わらず不安を感じる場合には、産婦人科や精神科で相談してみましょう。

エディンバラ産後うつ病自己調査

産後うつ病にならないために、子育ての負担や不安を一人で抱え込まずに、周囲のサポートを上手に活用することが大切です。わが国では妊婦が実家近くの産院に移って出産し、産後しばらくの間、実家で過ごす「里帰り出産」の習慣があります。自分の両親に気兼ねなく産後のケアをしてもらえる環境は、特に初めて出産・育児にあたる女性にとって、不安や負担を軽減する効果が期待できます。また、各自治体では乳幼児のショートステイやヘルパー派遣など、さまざまな子育て支援事業が行われています。出産後の母親と赤ちゃんをケアする産後ケア施設も増えてきており、なかには自治体の補助が受けられる地域もあります。お住いの地域の支援制度について調べてみるとよいでしょう。

妊娠中や授乳期の薬物治療

妊娠中や授乳期の薬物治療

妊娠中や授乳期の薬物治療には特に注意が必要です。妊娠初期(2~4カ月頃)には薬剤による催奇形性(胎児に奇形を引き起こす作用)の可能性や、授乳期には母乳の中に薬剤の成分が入ってしまい、赤ちゃんに影響を与えることがあります。現在、うつ病治療中で妊娠を希望される方は主治医に相談してみましょう。
うつ病の薬物治療に使用される薬には、「抗うつ薬」「非定型抗精神病薬」「抗不安薬」「睡眠導入薬」「気分安定薬」などがあります(詳しくは「治療に用いられる薬」をご参照ください)。薬の使用上の注意などを記した添付文書によると、これらの薬の多くが妊娠中の服用は治療上の利益がリスクを上回る場合としており、服用中は授乳を避けることが記されています。薬物療法を選択するリスクや選択しない場合のリスクについて、うつ病の主治医や産婦人科医とよく相談するようにしましょう。

更年期うつ病

更年期障害の症状

更年期は、卵巣機能の低下が起こる閉経前後(45~55歳くらい)の時期を指します。女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が減退することにより、いわゆる「更年期障害」が起こります。更年期障害では、ほてりやのぼせ、めまい、動悸、トイレが近くなる、手足の冷え・しびれ、頭痛、肩こり、腰痛、倦怠感、耳鳴り、目のかすみ、息切れ、食欲不振、腹痛などのさまざまな身体症状が現れるほか、不眠、イライラ感、不安、気分の落ち込み、意欲・集中力の低下などの精神症状も現れます。更年期障害の治療は、分泌が少なくなったエストロゲンを補充するホルモン補充療法が中心となります。

空の巣症候群

また、この時期は子どもの成長や巣立ち、夫婦関係や介護の問題などで生活が大きく変わりやすいものです。結婚や就職、進学などで子どもが親元を離れ巣立っていくことは喜ばしいことですが、一方で「母親」としての役目が終わってしまったことへの寂しさが喪失感となってうつ状態に陥ることがあります。これは鳥の雛が巣立っていく様子にたとえて「空の巣症候群」と呼ばれます。
自らの体の老化を強く意識してしまったり、老後の生活への不安を感じたり、心身のバランスが崩れてうつ病(「更年期うつ病」と呼ばれます)になりやすい時期でもあります。
更年期障害ではさまざまな症状が現れるので、更年期うつ病と見分けがつきにくいのですが、心の変調を感じ始めたら気軽に婦人科や精神科に相談してみることをお勧めします。

8.高齢者のうつ病

高齢者のうつ病

年齢を重ねて精神的に安定していると考えられがちな老年期ですが、体力や気力の衰え、健康への不安、親しい人たちの死別、一人暮らしの孤独感などからうつ病になることが意外と多いのです。高齢者のうつ病は、身体の症状が強調されてしまい、うつ病であることが見えにくくなったり、認知症と間違われて見逃されてしまったりすることがありますので注意が必要です。

高齢者のうつ病の特徴

高齢者のうつ病有病率(ある時点で病気にかかっている人の割合)は13.5%*1と言われていますから、うつ病は認知症と並んで高齢者によくみられる病気の一つです。 厚生労働省の調査によると、性別・年齢階層ごとの気分障害(双極性障害を含む)の患者数は、男性は40歳代で最も多く、女性は30歳代~70歳代まで高い水準で推移していて、特に高齢者では男性に比べて女性の患者が非常に多い傾向が明らかになっています。

気分障害(うつ病・双極性障害など)の患者数

-性別・年齢階層別-

気分障害の患者数

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001103073(表62 より作成)

高齢者のうつ病は、若い世代のうつ病と比べてさまざまな喪失体験がきっかけとなりやすいことが知られています。具体的には、老化による身体・知的機能の低下や配偶者や知人・友人との死別、定年退職による社会的役割の喪失などがあげられます。

高齢者のうつ病の症状

高齢者のうつ病では、抑うつ気分のような精神症状が目立たず、耳鳴り、めまい、ふらつき、手足のしびれなど自律神経症状の訴えや、頭痛、腰痛、胃部不快感などの不定愁訴(とくに原因がなく、なんとなく身体のあちこちの調子が悪いという訴え)が特徴的です。 また、「物忘れが増えた」と訴えたり、心気傾向(検査をしても特に異常が認められないのに過度に自身の健康を心配し、悩んでしまう)が強く、「心臓が動いていない」「胃の中に虫がいる」のような妄想(心気妄想)が現れたりすることも特徴の一つです。ほかにも貧困妄想(実際にはお金があるのに「まったくお金がない」と考えてしまう)や罪業妄想(自分を罪深い存在だと自責の念にとらわれてしまう)などが起こることがあります。

高齢者のうつ病では、周囲の人も患者自身もうつ症状を「年だからしょうがない」と考えて受診せずに放っておいたり、受診しても精神症状については医師に話さず、主に身体の痛みや不調などの身体症状を訴えたりすることが多いために見過ごされ、重症化してしまうことがあります。高齢者は身体疾患を合併している場合が多く、それらの背景にうつ病が隠れてしまいやすいことも高齢者のうつ病の特徴といえます。

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Beekman, A.T. et al.: Br. J. Psychiatry. 174, 307-311, 1999

高齢者のうつ病の危険因子

高齢者のうつ病の危険因子として、次の6つが考えられます。

以前にうつ病になったことがある、もしくは家族にうつ病になったことがある人がいる。

慢性的な体の病気をもっている。

単身生活をしている(特に死別による)。

経済的に困難がある。

社会的サポートが不十分である。

女性である。

うつ病と認知症

うつ病と認知症

高齢者のうつ病では認知症と間違われるケースが少なくありません。認知症というと記憶障害が知られていますが、ほかにも気分の落ち込み、意欲・集中力の低下、イライラ感など、うつ病と非常によく似た症状が現れます。うつ病と認知症を区別するためには、時計を描くテスト(CDT)や詳細な認知機能検査、MRI検査、SPECT、PETなどの脳機能検査があります。 うつ病と認知症を合併している場合もありますから、あなた自身が不安を感じたり、高齢者の家族の心身の不調に気がついたりした場合には、なるべく早くかかりつけ医や精神科で相談してみましょう。

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