双極性障害ABC

双極性障害早わかりガイドです

監修:加藤忠史 先生
理化学研究所脳科学総合研究センター
精神疾患動態研究チーム チームリーダー

1.双極性障害(躁うつ病)ってなに?

双極性障害は気分が高まったり落ち込んだり、躁状態とうつ状態を繰り返す脳の病気です。激しい躁状態とうつ状態のある双極Ⅰ型と、軽い躁状態(軽躁状態)とうつ状態のある双極Ⅱ型があります。
躁状態では、気分が高ぶって誰かれかまわず話しかけたり、まったく眠らずに動き回ったりと、活動的になります。ギャンブルに全財産をつぎ込んだり、高額のローンを組んで買い物をしたり、上司と大ゲンカして辞表を叩きつけたりするような社会的信用や財産、職を失ったりする激しい状態になることもあります。一方、いつもよりも妙に活動的で周りの人から「何だかあの人らしくない」「元気すぎる」と思われるような軽い状態は、軽躁状態と呼ばれます。
一方、うつ状態では、一日中ゆううつな気分で、眠れなくなったり、または逆に眠りすぎたりします。大好きだった趣味やテレビ番組にも関心がなくなったり、食欲が低下し、おっくうで身体を動かすことができないといった症状もみられます。

100人に1人

世界的には、双極性障害はおよそ100人に1人1) がかかるといわれています。日本では、500人に1人2) と、もっと少ないという調査結果がありますが、まだこうした研究が少なく、はっきりしたことはわかっていません。いずれにしても、決して珍しい病気ではありません。また、かかりやすさに男女差はなく、20代から30代前後に発症することが多いとされていますが、中学生から老年期まで、幅広い年齢で発症する病気です。

双極I型II型
双極性障害は遺伝するの?

双極性障害を引き起こす特定の遺伝子はみつかっていません。でも、病気になりやすい体質(ストレスに対する敏感さ・弱さなど)には遺伝的な側面もあると考えられています。家族や親戚に双極性障害の方がいても、病気にならない方のほうが多いのですが、もし血縁者に双極性障害の方がいる場合には、慎重な診断・治療が進められるよう、医師に話してみましょう。

1)

Goodwin, FK, and Jamison KKR. Manic-Depressive Illness : Bipolar Disorders and Recurrent Depression. Second Edition. Oxford University Press, 2007.

2)

川上憲人.特定の精神障害の頻度,危険因子,受診行動,社会生活への影響.平成18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)こころの健康についての疫学調査に関する研究 分担研究報告書

2.双極性障害(躁うつ病)とうつ病は違う!

双極性障害は、一般的には「躁うつ病」という名前で知られています。なんだか「うつ病」に似ていますが、両者はまったく違う病気で治療薬も異なります。
うつ病は単極性うつ病ともいい、気分が落ち込んだり、やる気がなくなったり、眠れなくなったりといったうつ症状だけがみられますが、双極性障害はうつ状態と躁状態または軽躁状態を繰り返す病気です。

単極性うつ病と双極性障害

多くの双極性障害の患者さんはうつ状態で受診しますが、その後、躁状態を発症してはじめて双極性障害と診断されます。
うつ病の主な治療薬は抗うつ薬ですが、双極性障害では気分安定薬と抗精神病薬が使われています。詳しくは「お薬について」をご覧ください。

双極II型のほうが軽いの?

双極性障害にはI型とII型があります。II型の軽躁状態はI型の躁状態に比べて、症状が軽く、社会的な問題も少ないので、双極II型障害は双極I型障害よりも軽い病気だと思われがちですが、そうではありません。II型はI型に比べてコントロールしにくく、うつ状態を再発しやすいといわれています。どちらもなるべく早く治療を開始することが大切です。

3.それってうつ病じゃないかも…

一般的に、患者さん本人は躁状態を病気だと認識できません。いつもよりも調子がよいと感じて、「これが本来の自分なのだ」と思う方もいます。そのため、診察を受けようと思うのは、気分が落ち込んで苦しくなったうつ状態のときがほとんどです。とくに双極Ⅱ型の軽躁状態はⅠ型のように激しくないので、うつ病と診断されてしまいがちです。海外では、うつ病の症状で受診した患者さんの16%が双極性障害だったという報告1) もあります。
また、混合状態といって、うつ状態と躁状態が混じって出現することもあります。
双極性障害のうつ状態であることに気付かれないまま抗うつ薬で治療を続けていると、うつ状態が治らないばかりか、急激に躁状態が出現(躁転)したりする恐れがあります。
とくに、三環系抗うつ薬と呼ばれる古いタイプの抗うつ薬では、躁転のほかに、1年のうちに4回以上も躁状態とうつ状態を繰り返す急速交代化(ラピッドサイクリング)を誘発してしまうことがあるので、注意が必要です。

急速交代化

残念ながら今のところ、診察で双極性障害によるうつ状態なのかうつ病によるうつ状態なのかを区別できる有効な方法はありません。実際、双極性障害の患者さんは正しい診断を受けるまでに、平均7.5年2) もかかっているといわれており、診断は容易ではありません。的確な診断のためには、過去に躁状態(例:忙しくて何日も徹夜をして仕事をした、急にいろいろなアイデアが浮かんできた等)になったことがなかったか、医師に正しく伝えましょう。家族や周りの方の意見も聞いてみると、本人も気がつかなかった躁状態に思い当たることもあります。受診の前によく話し合ってみましょう。また、ご家族や親戚に双極性障害の方がいる場合には、参考に医師に伝えるとよいでしょう。さまざまな情報があると、より的確な診断に結びつきやすくなります。

簡易診断

1)

Angst J, et al. Prevalence and characteristics of undiagnosed bipolar disorders in patients with a major depressive episode: the BRIDGE study. Arch Gen Psychiatry 2011 ; 68(8) : 791-798.

2)

Ghaemi SN, et al. Is bipolar disorder still underdiagnosed? Are antidepressants overutilized? J Affect Disord 1999 ; 52(1-3) : 135-144.

4.こんな経験ありませんか?

躁状態とうつ状態の症状

躁状態の症状

エネルギーにあふれ、気分が高まって元気になった気がする

あまり眠らなくても元気

急に偉くなったような気になる

なんでもできる気になる

おしゃべりになる

アイデアが次々に浮かんでくる

怒りっぽくなる

すぐに気が散る

じっとしていられない

浪費

性的逸脱

うつ状態の症状

気分が落ち込む

寝てばかりいる

やる気が起きない

楽しめない

疲れやすい

なにも手につかない

自分には生きる価値がないと自分を責めてしまう

決断力がなくなる

死にたくなる

食欲がなくなる

上記のような症状に心当たりはありませんか?それはいつごろ起こりましたか?何年前のことでも構いませんので、思い当たる点は医師に相談してみましょう。
その際、症状が出る以前の普段の性格はどのようなものかについても医師に話しておくとよいでしょう。

どうしてひどい言葉を言うの?

とくに双極Ⅰ型の激しい躁状態では、怒りっぽくなったり、自分が誰よりも偉くなったような気持ちになるので、家族や周囲の人の気分を害するような発言をすることがあります。でも、それは双極性障害という病気が言わせていることですから、くれぐれも感情的にならないようにして、できるだけ早く病院に行きましょう。

5.治療しないとどうなるの?

回復までの過程

双極性障害は、予防療法を行わなければ、ほとんどの場合、再発する病気と考えられています1) 。再発を何度も繰り返すうちに、社会的信用や財産、職を失ってしまったり、家族に見捨てられてしまうこともあります。でも、早期に適切な治療を開始すれば、こうした社会的なダメージを防ぐことができるのです。
また、再発するたびに、次の発症までの期間が短くなっていきます。度重なる再発は、急速交代化(ラピッドサイクリング)を誘発する恐れがあります。急速交代化になってしまうと予防療法の効果が現れにくくなって、調子のよい時期(寛解期)がほとんどなくなってしまう可能性があります。
躁状態とうつ状態が混じって現れる混合状態では、「消えてしまいたい」という気持ちが強くなる一方で、行動的にもなるので、最悪の事態を避けるためにも注意が必要です。

治療せずに放置すると、多くの場合再発!

放っておくと

1)

Goodwin FK, Jamison KR. Manic-depressive illness. Bipolar disorders and recurrent depression. 2nd edition. Oxford University Press, 2007.

6.どんな治療があるの?

3要素

双極性障害は、早期に正しい治療を開始すれば、症状をコントロールしながら普通の生活を送ることができる病気です。ここではその治療法についてみてみましょう。
双極性障害の治療目標は、躁状態やうつ状態から回復し、再発を予防することにあります。この病気は再発を繰り返すたびに次の再発までの期間が短くなり、悪化しやすくなりますから、最も重要なのは再発を予防することです。
具体的には、薬物治療と心理社会的治療が用いられます。

薬物治療

双極性障害、特に双極I型の薬物治療は、長期間にわたって継続していく必要があります。
薬物治療には、気分安定薬や抗精神病薬を使いますが、一番大切なことは、病気を受け入れ、薬を飲み続けましょうということです。それにより、症状を安定させコントロールしながら社会復帰することができるようになります。
気分安定薬は双極性障害の躁状態とうつ状態の治療と予防に効果のある薬で、双極性障害薬物治療の基本となります。もう一方の抗精神病薬は気分安定薬と一緒に使うことにより、躁症状の治療に効果を発揮します。
詳しくは「お薬について」をご覧ください。

心理社会的治療

心理教育=患者さん自らが疾患について学習し正しく理解することで、病気を受け入れコントロールできるようになることが目的です。そのため、心理教育は発症の初期に大変重要です。たとえば、日々の自分の気分や症状を「眠りと気分の記録表」に記入してみると、自分の症状を客観的に捉えることができるようになります。

家族療法=双極性障害に対する家族の理解を深め、患者さんと家族が協力して病気に立ち向かえるようにすることを目的にしています。再発を防止するためには服薬の継続に加え、家族の協力が大変重要だからです。とくに、激しい躁状態は家族にとっても大きな負担となり、たとえそれが病気によるものだとわかっていたとしても、患者さんに対しマイナスの感情を抱いてしまいがちです。そのような感情は患者さんに伝わって、さらなるストレスが病状の悪化を招く、といった悪循環に陥りがちです。家族療法はこのような悪循環を断ち切るためにも、有効な治療法です。

認知療法=うつ状態では物事の考え方が否定的になり、些細なことでも自分を責めてしまいがちです。「○○ができなかった」ではなく、「△△はできた」と肯定的に捉える練習をすることで、うつ状態を乗り切るための考え方を身につけるのが目的です。

対人関係・社会リズム療法=双極性障害では社会(生活)リズムの乱れが症状の悪化の誘因となることが知られています。対人関係・社会リズム療法は、対人関係から生じるストレスやこの病気にかかってしまったことに対するストレスを軽減させる対人関係療法と、社会生活のリズムを規則正しく整えることを目的とする社会リズム療法を組み合わせたものです。
対人関係療法は、現在の対人関係の問題(ストレス)を解決し、家族や職場・学校の仲間、友人などとの良好な人間関係を回復させ、再発を防ぐために行います。よい対人関係ができると、周囲の人たちに病気を受け入れてもらうことができ、サポートを受けることができますから、治療の動機づけと症状の改善につながります。
社会リズム療法では、起床や出勤、夕食などの時間や他人から受けた刺激の度合い、イベントなどを記録することで、自分の生活リズムがどのようなものか、どんな場合に自分の社会リズムが不規則になりやすいかを理解し、修正できるようになります。一目で生活のリズムがわかるような、ご自分の生活に合わせた表を作ってみることをおすすめします。
対人関係・社会リズム療法についてさらに詳しく知りたい方は、下記の本が参考になります。
・水島広子著,『対人関係療法でなおす双極性障害』,創元社,2011

社会生活のリズム
治らない病気なの?

双極性障害は再発を繰り返しやすい病気です。再発しないようにするためには規則正しい生活を送るなどの注意をしながら、多くの場合、長期にわたって薬を飲み続ける必要があります。適切な治療を継続すれば症状を抑えて普通の生活を送ることができますし、そうやって仕事を続けている方もたくさんいらっしゃいます。糖尿病や高血圧と同じように、薬を飲み続けることによって病気をコントロールし、普通の生活を送ることができますので、心配しすぎて逆にストレスにならないように気をつけたいものです。

7.双極性障害治療の心構え

本人・家族が病気を正しく理解しよう!

病気を受け入れ、再発予防のために薬の服用を継続しよう!

前回発症した時はたしか…

本人は躁状態を、また家族はうつ状態を軽く考えがちです。病気を正しく理解して、服薬を継続しましょう。

薬の作用と副作用について正しく理解しよう!

服薬を継続するためにも、薬による作用・副作用を理解することが必要です。
主治医とよく相談しながら自分にあった薬を選択しましょう。

完璧主義の思考をやめよう!

双極性障害は躁状態とうつ状態、症状のまったくない寛解期を繰り返す病気で、躁状態がこの病気の特徴ですが、実際にはうつ状態の方が長いのです。病気になってからの期間(罹病期間)全体のうち、双極Ⅰ型では約3分の1、双極Ⅱ型では約半分をうつ状態が占めていたという報告1, 2) すらあるほどです。
そのため、うつ状態とどう向き合い、対処するかが大変重要です。うつ状態では思考が否定的になり、自己嫌悪や罪業感にさいなまれがちですが、認知療法を続けることで100%を目指さず、70~80%できれば十分だと考えられるようにしましょう。うつ状態が治るまでには時間がかかることがほとんどですから、服薬を継続しながらゆっくり休息をとって、あせらずに生活のリズムを整えることが大切です。

発症した時の状況を振り返ってみよう!

双極性障害治療でもっとも重要なのは再発を予防することです。
以前の発症時にはどんなイベント(ストレス)が原因となったのか、ご家族や周囲の人にも相談して振り返ってみましょう。(例:仕事が急に忙しくなって深夜まで働いていた。特別なイベント:親しい人が亡くなった、子供の結婚式があった、海外旅行に行った、など)

再発の初期徴候を知ろう!

再発の初期徴候(はじめにあらわれるサイン)は、睡眠時間が短くなってきたり、インターネットで本をたくさん注文してしまったり、おしゃべりになってきたりと、人によってさまざまです。家族と相談しながら自分の「再発のサイン」はどんなものか、これまでを振り返ってみましょう。再発のサインがあらわれたと思ったら、早めに主治医に相談することが大切です。

以前の躁状態、うつ状態の期間や程度、再発前のストレス、治療内容などを年表のように書き込んだ「ライフチャート」を作成すると、あなたにとって再発や症状の悪化に結びつきやすいストレスはどんなものか、理解するのに役立ちます(記入例を参照ください)。
ライフチャートをもとに、医師やご家族に相談しながら、ストレスへの対処法を考えてみましょう。

1)

Judd LL, et al. The long-term natural history of the weekly symptomatic status of bipolar I disorder. Arch Gen Psychiatry 2002 ; 59(6) : 530-537.

2)

Judd LL, et al. A prospective investigation of the natural history of the long-term weekly symptomatic status of bipolar II disorder. Arch Gen Psychiatry 2003 ; 60(3) : 261-269.

再発のサインにはどんなものがあるの?

再発のサインは人それぞれです。いつもよりも睡眠時間が短くなったり、おしゃべりが増えたり、怒りっぽくなったりすることもあります。以前、発症したときのことを振り返って、自分の再発のサインを知っておくと安心です。
ご家族ともよく話し合って、再発のサインに気がついたらすぐに医師に相談してみましょう。

8.お医者さんに相談してみましょう

回復の鍵

双極性障害は早期発見・早期治療が回復の鍵になります。 双極性障害は正しく診断を受けるまでに平均7.5年かかったというデータ1) があります。適切な治療を受けられないまま過ごしていると、とくに躁状態での問題行動によって仕事を失ったり、離婚してしまったり、借金してしまったりして、その後の社会生活に大きな後遺症を残すことにもなりかねません。できるだけ早く治療を開始することが必要です。
うつ病の診断を受けて治療しているのによくならず、自分が双極性障害かもしれないと思い当たる場合には、精神科やメンタルクリニックなど、精神科を専門とするお医者さんに相談してみましょう。
その際にはうつ状態になる前に、妙におしゃべりになったことはなかったか、あまり睡眠をとらずに活動したことはなかったか、過去の躁状態についてご家族や友人に聞いてみて、それをお医者さんに伝えましょう。ご家族や親戚に精神科にかかったことのある方がいる場合には、そのことも伝えると、より正確な診断をする際の参考になるでしょう。

1)

Ghaemi SN, et al. Is bipolar disorder still underdiagnosed? Are antidepressants overutilized? J Affect Disord 1999 ; 52(1-3) : 135-144.

回復の鍵

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