あなたにもできる認知行動療法 -うつ病に対するCBT-

市民公開講座 2014「うつ病を知る日」東京 さまざまなうつ病ヘの対応

(独)国立精神神経医療研究センター
認知行動療法センター
堀越 勝先生

うつ状態を持続させる「悪循環の型」

うつ病の症状には、気分の落ち込み、自責感、おっくう、人と会いたくない、疲れやすいなどがあります。うつ状態は、悲嘆(大切な人や物の喪失)、共存症(糖尿病Ⅱ型、パーキンソン病など)、適応障害(特定の人や環境と適応できない)、不安障害(全般性不安障害など)、依存症(薬物、アルコールなど)、性格障害(依存性パーソナリティ障害など)など、うつ病以外でもあらわれます。
私たちはストレスを受けると、だれでもこういった経験をしますが、うつ病の問題はその状態から回復することなく持続する「悪循環の型」にはまってしまうことにあります。うつ病における認知行動療法は、うつ状態を持続させる型がどのようなものか見つけ出して、これを破る方法です。単に考え方を変えるだけでなく、現実の問題を解決するための行動を伴います。

心の仕組み「考え方」「感情」「行動」

私たちは普段、嬉しい、悲しい、不安、むなしい、怒りといったさまざまな感情を抱きます。ポジティブな感情(良い感情)に比べて、ネガティブな感情(悪い感情)の方が数多くあるのは、感情が私たちに起こっていることを教えてくれるアラームの役割を果たしているからだと考えられます。なにか出来事があったときに抱く「感情」と、とる「行動」はそれをどのように捉えるか(考え方)によって、異なります。
Aさんの場合を例にみてみます。

Aさんは、3カ月前に仕事を解雇され、今は無職です。それ以来、落ち込んでしまい家に閉じこもっています。眠れないのでお酒を飲んで寝ようとしますが、すぐに目が覚めてしまいます。解雇した会社に腹を立てていますが、それを毎日家族にぶつけるので、家族との関係も悪くなっています。いつも「どうせ俺はバカですよ」とふてくされて言います。

図1 心の仕組み図

認知行動療法では、図1のように自分の考え方や感情、行動を分けることでお互いの関連性を見つける作業を行います。私たちは考える際に言葉を使いますから、どのような言葉を使うかをみると考え方が分かります。ここでAさんの考え方をみてみると、「どうせ・・・」という考え方のパターンを暗示する言葉が出ています。このような考え方の癖を表す言葉には、ほかにも「絶対」「必ず」「・・・に違いない」「いつも・・・」などがあります。

ソクラテス式質問

認知行動療法では、パターン化されて自分では気づいていない考えや心の仕組みを本人が発見する手助けとするために質問を使います。カウンセラーがいる場合には、本人に質問しながら、真実や解決策を自分で見つけられるように導きます。また、本人が自分の考えに質問で挑戦することもできます。そのためには「ソクラテス式質問」が有効です。
ソクラテス式質問は、「数値化する」「具体化する」「他の見方を探す」「証拠を探す」などを通して自分の考えや行動に対して挑戦する方法です。質問は”Yes”や”No”で答えられる「閉ざされた質問」ではなく、自由に答えられる「開かれた質問」に属しますが、意図的にある考えや行動に焦点を絞って聞いていく質問法です。たとえば、「いつもうまくいかない」という本人の主張に図2のように質問します(図2)。

図2 ソクラテス式質問「す・ぐ・他の・証拠」探しの例

実験的なアプローチ

認知行動療法では単に考え方を変えるだけの方法ではなく、実際にやってみてどうなるかから学ぶ実験的なアプローチも行います。その際、特に有効なのは問題に名前をつけたり、数値化したり、グラフ化したり、目に見える形に「外面化する」ことです。そこで浮かび上がった問題に対処するためには、具体的に何をどのように変えていけばよいのかカウンセラーが相談者と一緒に答えを探します。
まずは自分の問題を書き出して考え方のパターンを探ることが認知行動療法のスタートとなります。