ここちいい生き方がある

 社団法人『やどかりの里』(埼玉県さいたま市)

1.メンバー自らも“支え手”──やどかりの里の活動

リンク:やどかりの里ホームページ
https://www.yadokarinosato.org/

病気とつきあいながら、社会復帰に向けて自分らしい生き方を探し続けているメンバーたち。メンバー自身が役員として参画し、職員とともに支えあいながら、ここちよい生き方を見出している「やどかりの里」におじゃましました。

創設者インタビュー1

「やどかりの里」の活動拠点はさいたま市内。現在約180人のメンバーが登録しています。(精神障がい者の社会復帰施設では、利用に際して登録制を実施している場合が多く、登録者をメンバーと呼ぶことがある) 「やどかりの里」の名前は、自分の成長に合わせて、より快適な“住まい”へと移り住む「やどかり」の姿になぞらえて、「活動は身の丈に合ったものを大切にしていこう」との思いから。

その活動の根底にあるのは「生活上の課題があっても、それを直そう、良くしようとするのではなく、ありのままに認め、環境を整えることで支えていく」(常務理事・増田一世さん)という考え方です。
「やどかりの里」は1970年にソーシャルワーカーである創設者の手によって、退院した精神障がい者に住まいを提供することから活動を開始しました。その原点は「この人たちがなぜごく当たり前の暮しを奪われるのか、という怒りにあった」(増田さん)といいます。地域で生活したいと願う精神障がい者に対し、「もし問題があったら誰が責任をとるのか」と懸念する周囲。創設者は「責任は本人がとる。この人たちは自分で責任をとれる人たちだ」と強い意志を持って対応しました。

メンバーもただ支援される側に立つばかりではありません。それぞれが「責任」を負って活動に参加しています。例えばメンバーも法人の年会費を負担し、一部は役員にも就任するほか、福祉工場や作業所では“福祉”という言葉に甘んじず、一般のお客様からもきちんと対価をもらえる、責任ある仕事を行っています。「ただ支援されるだけでは本当の回復は得られません。自分も支えることがあってこそ回復につながる」と増田さん。「精神障がい者は本来、それぞれ力を持っている。体調の悪い時など一時的には濃密な支援が必要でも、基本的にはもともと持っている能力で生活できる」とおっしゃいます。

「やどかりの里」のメンバーは、職員とともに活動のあり方を振り返り、問題提起をしています。精神障がい者の地域での生活をよりよくするために、当事者自らが社会の状況を学び、きちんと発言できる力をつけていくことがメンバーの目標です。発病前の自分に戻るのではなく、病を得たからこそ築くことができる人生を創ろう。メンバーの菅原さんが提唱されたという“生き直し”ができたメンバーの表情が、いきいきとしているのがとても印象的でした。

増田一世さん(常務理事・「ヤドカリ情報館」館長)

人間ってすごいな、と思います。

「“支えられる人”と“支える人”である以前に、“人と人”の関係を大事にしたい。新人時代から自分の価値観の偏りや傲慢さをメンバーから教えて頂きました。メンバーに迷惑をかけながら成長させてもらったんです。」
「精神障がい者は、力のある人たち。薬や病気の影響で短時間労働しかできませんが、本当はもっと能力がある。ぶつかることもありますが、私は精神疾患をもった彼らが好き。なぜなら、人間としてとても魅力的だから。メンバーの話を聞いていると、みんな一度は『生きていていいんだろうか・・・』って考えてる。一度はどん底にまで落ちて、そこから生き直す。私はそこに惹かれています。精神疾患になると、失われるものは多いのです。素の自分だけが残って、生きていこうとするとき、すごい力が発揮される。メンバーと過ごしていると“人間ってすごいな”って思うことがよくあります。」