認知症ABC
認知症の症状や治療について、
わかりやすく解説します
監修:橋本 衛 先生
近畿大学医学部 精神神経科学教室
主任教授
2.自分や家族が「認知症かも…」と思ったら
「認知症かも」と思ったら
もの忘れがあって日常生活に支障を来しているとしても、認知症以外の病気の可能性もあります。まずは医療機関を受診して、診察を受けることが大切です。
認知症についての社会的な理解が進んできたことで、もの忘れが増えてきたことを心配して「認知症かも」と医療機関を受診する早期の方が増えてきました。健常と認知症の間のグレーゾーンにある状態は「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」と呼ばれます。記憶力などの認知機能が低下しているけれども、日常生活への影響はないか、あっても軽度のものである場合を指します。
ただし、MCIと診断された方が必ずしも認知症になるというわけではなく、ライフスタイルや生活習慣を見直すことで認知症への移行を抑えたり、進行を遅らせたりすることができる場合もあると考えられています。そのため、早期に医療機関を受診して相談することが何より大切です。
気になったら、まずはチェック!
毎日の暮らしの中で「認知症かも…」と気になったら、簡単にできるチェックリストで確認してみましょう。
どのタイミングで受診したらいいの?
先のチェックリストで思い当たることがある場合や、日々の暮らしの中で不安に思うことがあれば、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。受診した結果、何もなければ安心ですし、早く気づくことができれば次のようなメリットがあります。
特に、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる健常と認知症の間のグレーゾーンの場合には、できるだけ早期に受診して治療を開始することで、認知症への移行を抑えたり、遅らせたりすることができると考えられています。
早く気づくことのメリット |
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①認知症当事者が認知症を受容し、これからの生活の備えをすることができる 症状が軽い早期に診断を受けることで、本人や家族が認知症について理解を深めて、これからの生活について話し合い備えることができます。介護保険サービスを利用したり、スタッフとなじみの関係ができたりすると、生活の質の向上も期待できます。 |
②家族が認知症への理解を深めることで、当事者の方と適切に向き合うことができる 家族が認知症に気づかず、本人の失敗を責めたり、もの忘れを繰り返し指摘したりすることで、本人の精神状態が不安定になっていることがよくあります。認知症であることを家族が理解し、本人に適切に対応することで本人の精神状態が安定しますので、なるべく早めの受診と診断が望まれます。 |
③早めの治療で治る認知症がある 認知症を引き起こす病気にはさまざまあることが知られています。早めに治療することで治る可能性がある病気(特発性正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、栄養障害、甲状腺機能低下症など)もあります。治療法やケアの方法も異なるため、早く受診して原因となっている病気を知ることが大切です。 |
④進行を遅らせることが可能な場合がある 最近新しいアルツハイマー型認知症の治療薬が発売されました。この治療薬は、アルツハイマー型認知症の原因を除去し、病気の進行を遅らせる効果が期待できます。ただし病気が進行してから治療を開始しても効果は乏しく、可能な限り早期に治療を開始することが望ましいとされています。アルツハイマー型認知症かどうかを診断してもらうためにも、早期の受診が必要です。 |
監修:橋本 衛先生
どの医療機関を受診すればいいの?
認知症の心配がある場合には、まずは普段から診てもらっている「かかりつけ医」に相談してみるのがよいでしょう。本人が望まない場合は家族だけで相談してみることも一つの方法です。本人が認知症の専門医療機関の受診を嫌がる場合でも、いつも診てもらっている先生ならば受け入れやすいことがあります。
かかりつけ医の受診後、必要に応じて認知症の専門医療機関を紹介してもらうこともできます。かかりつけ医がいない場合や本人が受診を嫌がる場合には、お住まいの地域の「地域包括支援センター」に相談してみましょう。地域包括支援センターは地域によっては「高齢者相談(支援)センター」などの名称になっていることもあります(6.相談先・リンク)。
認知症を診てくれる診療科には、「精神科」「脳神経内科」「脳神経外科」「老年科」のほか、「もの忘れ外来」「認知症外来」を標ぼうしている医療機関もあります。また認知症専門の医療機関として、「認知症疾患医療センター」があります。認知症疾患医療センターでは受診相談も受け付けていますので、電話で連絡してみても良いでしょう。認知症の診察には時間がかかりますので、多くの医療機関では予約が必要です。事前に確認してみましょう。
認知症は治るの?
認知症には正常圧水頭症やビタミンB1欠乏症のように、手術や投薬により治ることが期待できる認知症と、血管性認知症のように根治はできないけれども予防可能な認知症、そしてアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの根治も予防も困難な認知症に大別されます。まずは医療機関を受診して、治ったり進行を予防できる種類の認知症なのか、調べてもらうことが大切です。
仮に根治が難しい認知症の場合でも医療機関を受診することは必要です。確かに認知症は少しずつ進んでいきますが、早期に適切な薬物治療を開始したり、生活習慣やライフスタイルを見直したりすることにより、病気の進行を抑えたり、症状を軽くして自分らしく暮らせる期間を延長したりすることが期待できるからです。「どうせ治らないのだから…」とあきらめずに、早めに受診することが大切です。