お薬について

治療に使われているお薬についての簡単な解説です。

2.抗精神病薬にはどんなものがありますか?

抗精神病薬は、定型抗精神病薬(従来型)と非定型抗精神病薬(新規)とに分けられます。

定型抗精神病薬(従来型)

主に幻覚・妄想や考えをまとめられないといった陽性症状といわれる症状に効果があります。

主な副作用

錐体外路すいたいがいろ症状(手がふるえる、体が硬くなるなど、パーキンソン病様の症状)

プロラクチンの上昇(生理が止まる、乳房がはる、乳汁分泌、性欲がわかない、など)

のどの渇き、便秘、排尿障害、記憶障害、など

非定型抗精神病薬(新規)

陽性症状に効果があり、副作用の錐体外路症状(手がふるえる、体が硬くなる、など)が少なく、陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如など)に対する効果は定型抗精神病薬よりも高いといわれています。
また、認知機能障害への効果も期待できます。

新規抗精神病薬でも、錐体外路症状、プロラクチンの上昇、眠気、口の渇き、心電図の変化などの副作用が出る場合があります。

一部の薬剤については糖尿病の方には使用できません。

いろいろな剤形

抗精神病薬には同じ成分の薬でも異なった剤形があります。また最近では、1日1回でよい薬や、2~4週効果が続く注射剤を選ぶこともできますから、あなたの状態、生活状況、使いやすさや好みに合わせた選択をすることが可能です。 希望があれば主治医に伝えてください。

錠剤・カプセル剤・細粒剤/散剤(粉薬)

いわゆる飲み薬として一般的なものです。

口腔内崩壊錠(OD錠)・液剤(水薬/シロップ剤)・舌下錠

水なしでも飲むことができます。

注射剤

特に症状の激しい急性期など、効果を早く得たいときや内服が難しいときに筋肉注射や点滴で使われます。

持続性注射剤(LAI:Long-Acting Injection、デポ剤)

急性期に使われる注射剤とは異なり、注射した部位(筋肉内)に薬がとどまって徐々に血液に取り込まれていくため、即効性はありませんが、1回の注射で2~4週間効果が続きます。よく薬を飲み忘れる人や毎日の服薬にわずらわしさを感じている人などの助けになります。

薬によって、それぞれ剤形の種類は異なります。

症状の調整に使用される薬

抗不安薬

強い不安感や緊張感を和らげるために使います。作用時間や効き目の強さが異なるため、症状に合わせて処方されます。

睡眠薬(睡眠導入薬)

よく眠れない、寝つきが悪い、早朝に目が覚めてしまうなど、睡眠のリズムが狂ってしまう場合に使います。作用時間によって、長時間型、中間型、短時間型、超短時間型に分けられます。

抗不安薬や睡眠薬を使うときの注意点

抗不安薬や睡眠薬の多くは同じベンゾジアゼピン系の薬剤で、抗不安効果より睡眠効果が優位なものを睡眠薬として使用します。効果が早く現れる一方で、眠気や注意力の低 下といった副作用がみられることがあります。また、飲み続けると耐性や依存性が出たり、急に服薬を中止すると離脱症状(頭痛、手足のふるえ、眠れない、など)がみられる場合もありますので、医師と相談しながら使用してください。いずれも原則として短期間や頓服での使用がすすめられています。

抗うつ薬

うつ症状を呈する場合に、憂うつな気分を和らげ、意欲を高めるために使います。抗うつ薬には、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬)があります。

副作用を抑える薬

抗精神病薬の使用によって生じる副作用を抑えるため、次のような薬が処方されることがあります。

抗パーキンソン病薬

抗精神病薬によってドーパミンの働きが過剰に抑制されることにより生じる、手がふるえる、体がこわばる、足がむずむずするなど、パーキンソン病様の症状(錐体外路症状、抗精神病薬の働きとドーパミン参照)を和らげるために使います。
この薬は、副交感神経を刺激するアセチルコリンという神経伝達物質の働きを妨げることで錐体外路症状を改善しますが、一方で、口が渇く、便秘、おしっこが出にくい、認知機能低下などの副作用がみられることがありますので、これらの症状が気になる場合は、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう。
最近では、錐体外路症状を起こしにくい薬剤の選択や用量の調整によって、できるだけ抗パーキンソン病薬の使用を減らす治療が推奨されています。

便秘薬(緩下剤)

便通を良くするために使います。

抗精神病薬の働きとドーパミン

抗精神病薬はドーパミンの受容体を占拠して、ドーパミンが受容体に働いて次の神経細胞に情報を伝えるのを遮断することが主な作用機序と考えられています。

ドーパミンが関与する神経経路のうち、統合失調症の病態に関連しているのは➡(1) あるいは➡(2) の経路です。の経路の機能亢進は陽性症状(幻覚や妄想など)に、の経路の機能減退は陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如など)に関係しているといわれています。
また、➡(3)の経路は姿勢の維持や反射的な共同運動に、➡(4)の経路はプロラクチンという乳汁分泌ホルモンの分泌に関係しています。
定型抗精神病薬はドーパミン神経経路すべてを抑制してしまうため、の経路ではドーパミンの活動を低下させて陽性症状を改善しますが、の経路では減退しているドーパミンの活動をさらに低下させてしまいます。
また、投与量が増えるとの経路の遮断により錐体外路症状(筋肉のこわばり、ふるえなど)がひきおこされ、の経路に働くとプロラクチンの分泌が増加して、生理が止まったり乳汁分泌がみられたりすることがあります。

非定型抗精神病薬の錐体外路症状が少ない理由として、以下の可能性が考えられています。

セロトニンと呼ばれる神経伝達物質を阻害することにより、セロトニンのドーパミン抑制を解除し、結果的にドーパミンを増加させる。またはドーパミン以外のいろいろな 神経伝達物質の受容体に作用するため、その総合的な作用によって。

従来の抗精神病薬に比べ、ドーパミン受容体にゆるやかに結合するため、もともと存在しているドーパミンの働きを阻止しすぎないため。

ドーパミンD2 受容体を完全に遮断せず、一部刺激するという作用(部分アゴニスト作用)をもち、ドーパミンが多すぎるときにはその作用を抑え、少なすぎるときには強めて、ドーパミンの機能をちょうど良いところに保つため。