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脳科学から見た統合失調症

2.統合失調症で考えられている病気の仕組み

2-3統合失調症での認知機能の障がい

今まであげたような研究では、多かれ少なかれ機械を用いて、そこから得られたデータを脳の機能の指標として使っています。それ以外にも、患者さんにいろいろな課題を与えて、それを解決してもらう様子を調べることによって、脳の機能を調べることもできます。 これを神経心理学的な方法といいます。たとえば、記憶力・計算力・注意力・言語などの機能を測定するテストなどは、学校や職場などで経験された方もいらっしゃるかもしれません。 実際のテスト場面では、もう少し理論的に構成した課題を使ったり、いくつかのテストを巧妙に組み合わせたりして行ないます。 統合失調症の患者さんはこのようなテストに対してあまり協力的でないために、見かけ上成績が悪くなる可能性もあるので、検査の実行やその解釈は慎重である必要があります。 このようなテストを行うと、統合失調症の患者さんでは、注意力・記憶力・言語能力などが低めで、抽象的な思考も苦手であることがわかります。
行動の目標を設定し、柔軟かつ計画的に考え実行する力(実行機能といいます)も低下しています。 実際に、このような力が低下しているのは、統合失調症の患者さんの生活の中でしばしば観察され、社会の中で生活する上での障害になっています。
以上のような脳の働きはまとめて、認知機能とよばれています。統合失調症の患者さんではこの認知機能がいろいろな意味で障害されているようです。 そしてこの認知機能は前頭葉や側頭葉を中心として営まれているので、先に述べたfMRIなどの所見とも一致するのです。 ただしこれらの障害は、それだけで診断ができるほど重篤なものではありませんし、統合失調症だけで見られるというのでもありません。 また個人差も大きく、あくまで平均よりも低めに測定結果が出るということに留意して下さい。

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2-4統合失調症での神経伝達の障がい

統合失調症のドーパミン仮説

脳内で働いているいろいろな物質を調べる研究は生化学的研究とよばれ、医学の中ではさかんに行われてきた研究分野の一つです。
統合失調症の脳内の物質の変化を探ろうと多くの研究が行われています。 統合失調症では治療薬の作用を手がかりにして研究が行われてきました。 統合失調症に対しては抗精神病薬とよばれる薬が有効であることは、先にお話ししました。 この抗精神病薬が脳内でどのように働いているかを調べることは、動物を使っても研究できます。 抗精神病薬が開発されてしばらくしてから、この薬物は神経伝達物質であるドーパミンの受容体(第1章の図を参照して下さい)を阻害する働きを持っていることがわかりました(とくにドーパミン受容体の中でも2型とよばれる受容体を遮断します)。
つまり、ドーパミンが受容体に働いて次の神経細胞に情報を伝えるのを、抗精神病薬は遮断しているのです。 このことから、逆に統合失調症ではドーパミンの機能が亢進しているのだろうと推測されました。 これを統合失調症のドーパミン仮説といいます。

図5.ドーパミンの脳内の経路と
統合失調症での症状の関係

ところで、第1章の図でも示したように、ドーパミンにはいくつかの経路があります。
この経路のうち、統合失調症の病態に関連しているのは、中脳辺縁系あるいは中脳皮質系とよばれる経路です。 中脳辺縁系は腹側被蓋野とよばれる中脳の部位から大脳辺縁系に向かっています。 この経路は統合失調症の幻覚や妄想に関連していると考えられています。
一方、中脳皮質系は、同じ腹側被蓋野から前頭葉や側頭葉に向かっています。 統合失調症の陰性症状(感情の平板化、会話内容の乏しいこと、自発性の低下や社会からの引きこもり)などに関係しているのはこの経路ではないかといわれています(図5)。 黒質線条体経路は統合失調症の病態と直接の関係はないようです。
ただし、この経路はパーキンソン病の病変部位です。従来からの抗精神病薬はドーパミン経路のすべてに働いてしまうため、黒質線条体の遮断によってパーキンソン病様の症状(筋肉のこわばりやふるえなどです。 錐体外路症状ともいいます)が副作用として現れやすかったのです。 覚せい剤やコカインを長期に服用すると、幻覚や妄想が現れることはよく知られています。 どちらの薬物も脳内のドーパミンを増やし、ドーパミンの機能を過剰にする作用を持っているので、先ほどのドーパミン仮説にうまく合います。
しかし、PETなどを用いて統合失調症の患者さんの脳内のドーパミン受容体を測定しても、かならずしも受容体が増えているとは限らないようです。
この点については、実験を行う上での問題点の解決を含め、一層の研究が必要でしょう。

統合失調症のグルタミン酸仮説

脳内の神経伝達物質の機能障害という点では、グルタミン酸とよばれる神経伝達物質の機能障害も、統合失調症の原因として考えられています。 これは、フェンシクリジンとよばれる乱用薬を使用した人に、統合失調症と同じ症状が現れることから考えられました。
フェンシクリジンはグルタミン酸の受容体のうち、NMDAとよばれる受容体の機能を阻害するので、NMDA受容体を介したグルタミン酸機能の低下が統合失調症の原因ではないかというのがグルタミン酸仮説です。 ドーパミン仮説が主に統合失調症の陽性症状を説明するのに対し、このグルタミン仮説は統合失調症の陽性症状と陰性症状の両方を説明できるのが特徴です。
ただし、この両者は相反する仮説ではなく、統合失調症の病態仮説についての2つの異なった切り口ととらえるべきでしょう。

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