地域の一員として生きる力を

社会福祉法人一麦会『麦の郷』(和歌山県)

4.精神障がい者が「働く」ということ

今回は「麦の郷」が開設した日本初の精神障がい者福祉工場「ソーシャル ファーム ピネル」にスポットを当て、当事者にとっての働くことの意味を考えます。

精神障がい者が「働く」ということ

「自分を成長させる“職業リハビリテーション”です」

伊藤静香さん(麦の郷障害者地域リハビリテーション研究所所長)

「能力のある人にはどんどん活躍してもらいたいですね」

田中秀樹さん(麦の郷理事長)

「麦の郷」の運動の“5つの柱”の中に「精神障がい者の社会参加」がある。精神障がい者にとって、働くことには経済的な自立はもちろん、リハビリテーションという重要な役割があると考えている。

伊藤:

働くことで新しい自分と出会えます。病気になる前の自分に戻るのではなくて、“病気を持ちながら生きていく自分”に出会えるのです。仕事というのは、役割があって「休まれたら困る、あなたがいてくれないと」という期待を受けることでしょう。もちろん経済的に自分で稼げることも大事ですが、“期待される自分” に出会うのはとても大事です。またメンバーにとって苦手な対人関係や人間関係を作るのにも役立ちます。社会の中での働く場、いわば本物の仕事場では相手からの要求には応えなくてはならないし、失敗も許されないから、辛い思いをすることにもなりますが、苦労することも覚えていく。働くことは、自分を成長させます。これは職業リハビリテーションであり、人間的な復権を目指すことだと捉えています。

経済的に安定すれば、自分の将来が見えてくる。一般就労を考えるもよし、当事者同士で結婚し、支え合って生きていくこともいい。当事者の自立した生活が最終目標だ。

田中:

和歌山県でも毎年多くの障害児が卒業しており、「麦の郷」を必要とする人はいくらでもいます。地域生活の能力を身につけた人はどんどん地域に出て行って、自分で稼いで自立して欲しいと思います。

伊藤:

アパートへ入っても、体調が悪くなれば一時的にショートステイを利用すればいい。援助の仕組みを上手に使って、自分で健康管理をしながら元気で働いてほしいですね。誰かに頼らなければならないところは頼ればいい。何から何まで自分一人で生きていくことが自立ではないのです。適当に頼れる人を見分けられる力を身につけて、“依存した自立”をすればいいんです。

「麦の郷」では“メンバースタッフ”と呼ばれる当事者が法人職員となっているが、さらにこれを地域のシステムとして広げて行くことが今後の課題だ。

田中:

半分の障害者が半分の障害者を支える仕組みを作りたいのです。当事者には有能な人がいっぱいいる。力のある人にはどんどん活躍してもらって、障害者がスタッフを兼ねればいい。スタッフは福祉職の専門家の領分だということではなく、もっと当事者と一緒に働けばいいと思います。