日本一を目指す熱き闘い(前編)

第7回全国精神障がい者バレーボール大会観戦記

3.バレーボールは人間的な成長を促す場

孤立や孤独に陥りやすい精神障がい者の社会参加において、スポーツは重要な役割を担っている。実際に、大会への参加を通して人生に前向きになったり、生きる希望や活力を得て、就労や新たな人生作りを始める人も少なくない。スポーツがもたらす精神障がい者の社会参加の意義を日本精神保健福祉連盟の高畑隆氏はこう語る。

高畑隆氏(日本精神保健福祉連盟)

人はそれぞれの立場や役割からいろいろなカードを持っています。働いていれば勤労者としてのカードをもっていますし、病気にかかって通院していれば患者というカードをもっているわけです。しかし、社会参加ができていない当事者は患者カードしかもっていないんですね。社会参加できなければ、患者さんはいつまでたっても患者さんのままでしかない。全国精神障がい者スポーツ大会は、当事者に新しくスポーツ選手というカードを与えるものですが、スポーツといういきいきと活躍できる場をもつことで人生の目標ができ、そして社会参加や自立につながっていきます。大会に参加する当事者を長年みてきましたが、当初に比べて選手の顔つきはアスリートのそれに変わってきましたね。

この大会に参加する選手たちからも、バレーボールと出会ったことで生きがいができ、今回の取材を通じて多くの参加者から人間的な成長につながったという前向きな言葉が随所に聞かれた。

浅野和代さん(新潟県『ゆ~ばえ』メンバー)

私はチーム結成からのメンバーで、バレーボールを始めてからかれこれ6年が過ぎましたが、病気と付き合いながらだったので苦労しましたね。練習や試合の途中で具合が悪くなったりしたこともあったけど、バレーボールが私の生きがいになっていたのでここまで頑張れたんだと思います。バレーボールの腕前も始めたころから比べるとかなりレベルアップしたなぁって思います。

岩田兼司さん(大分県『大分マリンズ』キャプテン)

勝負ももちろん大切だけれど、バレーボールを通じて人間的に成長することがそれ以上に大事だと思っています。礼儀正しく人と接する、支えてくれている周りの人たちに常に感謝の気持ちをもつ。こんなことは当たり前かもしれないけど、社会との接点の少ない僕たちにとってバレーボール活動は人間的に成長するための場だと思っています。

偏見の壁を乗り越えて

一方、精神障がい者スポーツ大会が目指すもう1つの側面は、精神障がい者に対する偏見とスティグマ※の解消だ。従来から精神障がい者に対する周囲の偏見は根強く、また当事者の方も自分の障害を隠すというスティグマがあり、これがさらに偏見を助長してきたと言える。しかし、この大会に参加する選手たちは顔も名前もオープンにすることが原則で、いきいきとスポーツに取り組む当事者たちの姿は、確実に障害の理解へつながっている。
高校のバレー部に所属し、競技補助員として大会運営に参加した県立増田高等学校の麻生功希さんは、精神障がい者のバレーボールを初めて見た感想を語ってくれた。

スティグマとはいわれなきレッテルが貼られることによる差別や偏見を意味し、統合失調症ではこのスティグマによって多くの患者や家族が苦しめられている。

麻生功希さん(県立増田高等学校)

ボランティアとして参加する前は精神障がい者の人たちのバレーボール大会ってどんなのだろうって思っていましたけど、実際見てみると普通の人たちと何も変わらないですね。バレーボールの腕前にバラツキはあるけれど、うまい人は僕らから見てもかなりレベルが高いと思います。

横手市で精神障がい者のバレーボールが開催されると聞いて観戦に訪れたのは、横手在住の柴田旦子さんと加賀谷キミヨさん。「出ている選手に知り合いがいるわけじゃないけど、精神障がい者の人たちのバレーボール大会があると聞いて興味があって観戦しに来ました。みんな病気を抱えているようには全然見えないし、一生懸命さやひたむきさが伝わってきて、つい応援にも力が入ってきますね」と語る。

大会審判副委員長の松本和弘氏も、今回の大会を通じて初めて精神障がい者のバレーボール大会に関わった感想をこう語る。