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疾患を超えて

私の体験談

当事者の作品
「タイムマシン」※本作品はフィクションです

 統合失調症を発病した私は、過去を遡ることによって病気が良くなるのではないかと、タイムマシンを発明したウェルズ博士の研究室を訪ねました。博士は私の説明を聞いて、どこで人生に躓いたか探してくれることになりました。ウェルズ博士のタイムマシンは、自分がタイムトリップできるのではなく、過去の私の姿をスクリーンに映し出すというものでした。それも、近い過去からどんどん若い頃、幼い頃、と振り返っていくというものです。タイムマシンの映像を見るに当たって、ウェルズ博士に、私は、冷静でいること、取り乱さないことを誓いました。

 宣誓書に署名すると、すぐにタイムマシンのある部屋に移動しました。「絶対取り乱さないで下さい。」という字幕が出た後、私が自分の家で、奇声を発して床をドンドン叩いている映像が見えました。私は恥ずかしくて顔をそむけたくなりましたが、博士は私の頭を押さえて
「直視してください。これがあなたの真実ですよ。」
と言いました。次は、包丁を振り回そうと台所に向かう私を両親が必死に止める映像が出ました。さらに、私が枕を投げつけて障子紙どころか桟まで壊してしまった映像が出ました。私は狂っているので、壊して笑っていました。声を出して笑っていました。暗然とした気分になると、午前四時頃に起きて、いつも同じ服と鞄で家出すると言い張っている私の映像が出ました。今でこそ、浅ましいと思えますが、両親に当たっている構図に変化はないのだと思いました。

 その後、私が結わいた髪の束をハサミで切り落とす映像が出ました。私は長い部分を切ったのに飽き足らず、残った髪まで、稲刈り後の田んぼのように切ってしまいました。その次には、私が、素っ裸で部屋に横になった映像が出て、さすがに、目をそむけたくなりました。このときも、ウェルズ博士は
「あなたの過去です。目をそらしてはいけません。」
と私の頭を押さえました。次は、発病の兆候となった、ガラスを拳で割った私の手に血がにじんでいる映像が映し出されました。

 それから、既に発病していたのでしょうが、花束をもらって家に帰って来た、私の映像が映し出されました。私は、失恋と嫉妬で狂い、勤め先の特許事務所にご迷惑をかけたので、事務所を辞めたのです。その次には、二人の男性が取り押さえようとするのに、抵抗している私の映像が映し出されました。二人の男性とは、父とタクシーの運転手さんでした。私がストーカーとなって押しかけた、同じ職場の男性が、父に私を連れ戻しに来るように頼み、タクシーも呼んだのです。

 そして、その次には、私が一方的に好きになった男性と事務所から東京駅まで歩いている映像が映し出されました。以前の私だったら、泣いてどうしようもなかったと思いますが、今の私はその映像を直視することができました。ここでウェルズ博士は
「この男性と出会わなければ良かったと思いますか。」
と私に質問しました。私は
「一生に一度、男の人と待ち合わせできたので後悔していません。」
と答えました。自分でも意外な反応でした。

 次に、私が学生の頃の映像が映し出されました。私は、自分と同じ大学の学生なんかと結婚しない、という傲慢な表情をしていました。私が話すのは、女子学生で、男子学生とは話をしていませんでした。私は思わず「アッ」と言ってしまいました。すると、ウェルズ博士は
「どうしたのですか。大学は気に入っていたのではないのですか。」
と質問しました。私は
「自分よりいい大学の人と結婚したがっていたって、病気の原因じゃないですか。」
と言いましたが、ウェルズ博士は黙って私の高校生のときの映像を映し出しました。某男子校の文化祭でフォークダンスを踊っている私が映し出されました。再び私が
「私、この高校の人と結婚したかったんです。」
と叫びましたが、ウェルズ博士はまたも沈黙でした。

 次に、ウェルズ博士は私が、中学校で同じクラスの女の子に無視されている映像と、私がガリ勉をしている映像を連続して映し出しました。
「私、中二でいじめに遭ったんです。でも、成績はよかったんです。」
と思わず口にしてしまいました。ウェルズ博士は
「あなたは、自分の成績のよいのを鼻にかけていたからいじめられたのです。あなたは先生にひいきにされて、自分中心に世界が回ると思い込んでしまったのです。あなたは、高校で成績が悪く、自分中心に世界が回らなくなって、高校を辞めたかったのですよね。中学で勉強と部活しかしないで、家の手伝いとか、友達と遊ぶとか、普通の学生でいられなかったのがおかしいのです。」

 次にウェルズ博士は、私の小学生のときの映像を映し出しました。学芸会で一人ピアノの伴奏をして、得意そうな顔をしている私がいました。ウェルズ博士は私に
「あなたの担任の先生は、あなたが嫌いだった。それでも、ピアノの伴奏をさせたのは、中学でいじめられるように、わざとひいきをしたのです。小学生のときも、あなたは家でも学校でも自分中心に世界が回ると思っていましたよね。」
ウェルズ博士は熱弁をふるいました。
「私は、科学者ですが、精神科医ではありません。ただ、あなたが、病気が良くなる手がかりがつかめるかもしれないと言ったので、あなたの人生を振り返ってみた。あなたは一人っ子で甘やかされて育ちました。小学校・中学校と自分中心に世界が回っていたのに、高校に行ってから、自分中心に世界が回らなくなって、学校がつまらなくなったのではないですか。それを修正できないまま、大人になって恋愛したってうまく行くはずがない。あなたは未だ自分中心に世界が回って欲しいのでしょう。そんな考えは一刻も早く捨てなさい。そうしないとあなたの人生は台無しになる。」

 私は、ウェルズ博士の言葉を即座に理解できませんでした。タイムマシンの代金五万円を支払って私は家に帰りました。家では両親が鍋を作って待っていてくれました。食事の後、ベッドに入ってから、ウェルズ博士の言葉を思い出しました。私は、自分中心に世界が回らないと不満なんだ。何てわがままなんだ。とたまらなくなり、両親の寝室へ向かいました。父に向かって
「お父さん、アタシ、自分が中心に世界が回らないと嫌になるわがまま。自己中なんだね。」
とせきたてると、父は眠そうに
「何だ。今になって気がついたのか。今からでも遅くないから、残りの人生を実りあるものにするためには、いつも自分が中心に世界が回らなくちゃ、なんて言っていられないぞ。」
と答えてくれました。

 後日、ウェルズ博士の手紙を読んだ、主治医の先生からお言葉を頂きました。
「あなたは、自制心がありません。まずは、相手の立場に立って、論語の『己の欲せざる所は人に施す勿れ』を念頭に置くことで、少しでも、自己中を治すべきです。人間、思う通りにならないことの方が多い。だからって、暴れたり、怒鳴ったりすることはやめなさい。
もし、相手を傷つけてしまったときは、おわびしなさい。何のためにデイケアに行っているの。デイケアで、もっと修業しなさい。」

 デイケアでは、編み物を教えて下さった、スタッフの本橋さんがおっしゃいました。
「石原さん、編み物は失敗しても何度でもやり直せます。でも、傷つけてしまった人の心は、簡単には治せません。これからは、相手の立場を考えて発言するように、気をつけましょうね。それが、石原さんの、これからの目標ですね。」
優しいなかにも鋭いアドバイスを頂いて、私は、反省することしきりでした。

埼玉県 ペンネーム:石原めぐみ(本人)

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