メール便配達業務を軸にした当事者の手による作業所の運営

『なは倶楽部』(沖縄県那覇市)

小規模作業所「なは倶楽部」は沖縄県那覇市にあります。以前、活動していた「ふれあいセンター」で行っていたメール便配達業務や名刺印刷業務を引き継いで、当事者の手による運営を目指し活動している「なは倶楽部」におじゃましました。

1.メール便配達や名刺印刷を続けるために新しい作業所を

なは倶楽部が設立されたのは2003年の夏。なは倶楽部の所長として白羽の矢が立てられたのが濱川久美子さん。統合失調症を患う当事者ながら所長という大役を任された当時の様子をこう振り返る。

濱川久美子さん(なは倶楽部所長)

濱川さんがふれあいセンターと関わるようになったのは、入院していた病院で出張販売に訪れていたふれあいセンターのメンバーに、なんとなく声をかけたのがきっかけという。それから6年の歳月を経て、新しい作業所の所長として抜擢されたその境遇に、人生の不思議な縁を感じさせる。

なは倶楽部の1日は、毎朝9時からの全体会議で始まる。濱川さんの「おはようございます!」というはつらつとした声がスタートの合図だ。各メンバーにはその日1日の業務予定や検討事項がびっしりと書き込まれたプリントが配られ、てきぱきした濱川さんの司会によって、当日のメンバーの作業予定の確認や議題の処理がスピーディーに進められる。その日1日のメンバーの気持ちを引き締めるためにあえてこのようなシステマティックな会議を行っていると濱川さんはいう。  この日の全体会議では、研修期間を終えた新しいメンバーの入所可否を決める投票が行われた。なは倶楽部への入所は1カ月の研修期間を経て、各メンバーによる投票で決められる。この日の投票では全員一致で入所賛成となり、なは倶楽部にまた新しい仲間が加わった。

達成感が味わえるのがメール便配達の魅力

なは倶楽部の朝は慌しい。全体会議が終わると、各メンバーは早速それぞれの受け持ち業務にとりかかる。メール便配達班は、その日配達するメール便を集荷するため、車で10分の沖縄ヤマト那覇空港前営業所に向かった。

ヤマトの営業所では、メール便を配達する一般のクロネコメイトさんたちに交じって、自分たちの受け持ち区域に振り分けられたメール便を一通一通端末でスキャンしていく。これがヤマトの営業所から配達担当者にメール便が渡った証となる。この日の集荷件数は比較的多い80通。集荷物の端末スキャンが終わると、それを作業所に持ち帰り、今度は番地ごとにメール便を振り分ける。振り分けは手間のかかる作業のため、手の空いているメンバーと手分けして行う。そして、番地ごとの振り分けが終わると、白地図上に配達箇所をマーキングして最適な配達ルートを決定する。一連の作業が終了したときには、すでに正午を過ぎていた。
これらの作業を黙々とこなすのがメール便配達班の慶佐次弘さん。もともと慶佐次さんが個人メイトとしてメール便配達を行っていたのがきっかけでふれあいセンターが組織として取り組むようになったというのだから、いわば慶佐次さんがこの配達業務の生みの親といえる。

慶佐次 弘さん(なは倶楽部メンバー)

メール便の配達を始めたころは宛先の住所がわからなかったり、雨の日にメール便を濡らしちゃったりと大変でしたね。でも、いまは配達に慣れたので楽しいですよ。配達業務をゲームのようにしてやると面白いし、その方が便数が多くてもやりがいがあるしね。最高で1日に180通配ったことがあるかな。配達が終わると達成感が味わえるのがメール便配達のいいところですね。

この日の配達は夕方から。いつも慶佐次さんがバイクで配達に出掛ける。最短ルートを記した地図を片手に配達先を順々に回り、配達先でメール便をペンスキャナーに通してポストに投函すると配達が完了する。「メール便はその日のうちに届けなければいけないので、便数が多いと夜遅くまで配達することもあります」と慶佐次さん。この日も比較的便数が多かったのと、配達が夕方からだったこともあり、すべての配達を終えて戻ると8時近くだった。

なは倶楽部のメール便配達が全国のモデルに

沖縄ヤマトの又吉淳氏は、なは倶楽部でのメール便配達業務の取り組みをこう評価する。

又吉 淳氏(前 沖縄ヤマト那覇空港前営業所所長、
現 沖縄ヤマト小禄センター営業マネージャー)

メール便配達業務を開始した当初はこちらでフォローするようなこともあったようですが、いまはそのようなことはなく貴重な戦力になっています。特に、個人メイトさんが急用で休んだりしたときに、なは倶楽部さんがその分をフォローしてくれるので本当に助かっています。
障害者の方でも1通当たりの配達料は一般のメイトさんと同じです。もちろん、障害者だからといって特別な配慮はしません。グループで協力しあって担当すれば障害のある人たちでもできるところがメール便配達の魅力ではないでしょうか。

ヤマト運輸はヤマト福祉財団を通じて障害者の就労支援に積極的に取り組んでおり、2004年10月からメール便配達事業を全国の障害者施設・作業所に広めていく事業を開始している。同事業のモデルケースとなったのがなは倶楽部と浦添営業所であり、又吉氏は全国の営業所からの事業展開にアドバイスしているという。ふれあいセンター、なは倶楽部で培われたメール便配達業務のノウハウがいま全国に広がろうとしている。

ヤマト福祉財団のクロネコメール便配達事業

障害者の「自立」と「社会参加」を目指すヤマト福祉財団では、ヤマト運輸のクロネコメール便配達業務を新しい就労の場として提供し、障害者の就労支援を行っています。
2006年7月14日現在で、全国119カ所の障害者施設、532名の障害者がクロネコメール便配達業務に携わっています。http://www.yamato-fukushi.jp/