地域の一員として生きる力を

社会福祉法人一麦会『麦の郷』(和歌山県)

5.「ソーシャル ファーム ピネル」

精神障がい者福祉工場「ソーシャル ファーム ピネル」

精神障がい者の経済的自立をめざし、1988年に和歌山医科大学精神科と共同で障害者自立工場を有限会社として設立、病院のシーツクリーニング業をスタートしました。1995年、その一部を日本で最初の精神障がい者福祉工場(定員30名)として開所。クリーニング部と印刷部が稼動しています。1日7時間のフルタイム労働で、最低賃金が確保され、社会保険、労働保険もつき、一般の企業と近い条件で働くことができます。

森脇宏さん(メンバースタッフ)

任されている仕事を達成するのが楽しい

印刷部で毎日、楽しく働いています。生活も充実してきたし満足感があります。任されている仕事を一つひとつ達成していくのは楽しいですね。新しく入ってきた仲間には印刷機械の操作などを教えています。同じ仲間なので、以前の自分と重なる部分もあって、「今はこういう気持ちかな」とか、「今日は調子が悪そうだな」とわかるので、初めはあまり無理をさせないように気をつけています。

村上正祐さん(メンバー)

『この仕事しかない』と頑張っています

クリーニング部で枕カバーの数を数えたり、結束したりする仕事を担当しています。入院17年。給料というものをもらったことがなかったのですが、働いてお金がもらえるのは嬉しい。13年目ですが、「僕にはこの仕事しかない」と思って頑張っています。

岩本光司さん(メンバー)

いつかはスタッフに!

勤続19年。洗濯機の操作には自信があります。夢のまた夢だけど、いつかは作業所のスタッフになることを目指しています。

福井伸晃さん(メンバー)

職場は楽しいですよ!

クリーニング部で病院関係のシーツを一枚一枚広げるのが僕の仕事。職場は夏は暑いし、冬は寒いしで大変ですが、規則正しい生活で精神的に安定しました。慣れるまで初めの2~3年はきつかった。でも、仲間や職場は楽しいし、一日のノルマを達成したときにやりがいを感じます。いつかは一般就労に挑戦してみたいと思っています。

宮本久美子さん(「ソーシャル ファーム ピネル」所長)
スタッフの役目は事業を安定させること

基本はフルタイム労働

基本的には7時間のフルタイム制での雇用契約を結んでいます。一般企業と同じような形で働けることが福祉工場の役割ですし、賃金はフルタイムで月10万円程度、社会保険などを引くと手取りは8万5千円程度になるので、生活できるだけの所得を得るにはやはりフルタイムになります。どうしてもフルタイムが難しい方は午後2時ぐらいで切り上げるという形で雇用契約を結んでいます。

安定した事業なら障害者が働きやすい

私たちスタッフに一番求められているのは、事業を安定して継続していくこと。入札で負ければ仕事は入ってこないし、毎日営業に出て行き仕事を取って来なければ継続できません。事業が継続してこそ障害者の就労がかなっていくし、安定しているほど働きやすくなります。毎日違う仕事を複雑にこなすよりも、毎日同じ時間帯に同じ仕事が出来るようにしたい。だから、個々のメンバーのことはPSWががっちりサポートして、福祉工場のスタッフは事業をきちんと継続させることに専念しています。障害者は働く力がないから働けないと思われがちですが、一緒に働ける事業所を作ろうという理念があれば、障害者も十分働くことができます。

雇用人数増が課題

現在15人のメンバーを雇用していますが、30名の定員一杯に拡大するのが今後の課題です。一人雇うには年間200万円以上かかるので、それを裏づける仕事の確保が必要です。ボーナス資金が足りない時は、皆でコロッケを揚げてお祭りで販売して資金の助けにしていますが、できれば本業で資金調達できるよう売上げをもっと伸ばしたい。

森 貴孝さん(「ソーシャル ファーム ピネル」副施設長/麦の郷印刷代表)

経験を通じて世界を広げてほしい

メンバーには適材適所、やれることはどんどんやってもらい、将来的にはスタッフが受け持っている仕事も全部現場のメンバーに任せていきたいと考えています。メンバーにとって最初の課題は、症状の安定を優先しながら、決められた勤務形態に則って仕事をすることですが、仕事を含め様々な経験を通じて自分たちの世界を広げていくことがその次のステップですね。皆で一緒に仕事をして利益を出し、飛行機に乗って旅行することを目標に取り組んだこともあります。その成果として去年の慰安旅行は個人負担なく収益だけで実現しました。福祉的な発想ではなく、従業員に還元できる事業所として “経営”しなければと思っています。メンバーには一人一人の役割、責任を自覚してもらい、自分もこの印刷事業を運営し、経営しているという意識をもってほしいですね。

田村知己さん(精神障がい者通所授産施設「むぎ共同作業所」施設長)

メンバーが仕事の信用をとりつけてくれました

メンバーは皆、まずはここで一日過ごせるということが最優先。得意な作業はどんどん伸ばして、手のあいた時間にはちょっと苦手な作業を練習し、克服していきます。勤務時間は基本的には7時間勤務ですが、細かくケアをして、最初は週に半日〜1日位から初め、少しずつ時間を増やしていき、メンバー自身が頑張っていける勤務形態を探します。
今、仕事は忙しく、工場は一日中フル操業。この不況下なのにありがたい話です。残業になっても確実な製品仕上げを優先するなど、メンバーが信用を取り付けてくれたからこそ仕事を回していただけたのです。クレームも少ないし、「プレス仕上げがきれいだからお宅にお願いしたい」と飛び込みの依頼もあります。
3障害の方が一緒に会話しながら楽しく、笑顔で働く職場にしたいと考えており、工場の中では皆の好みのカセットテープをBGMとしてかけています。でも僕が持ってきたテープは絶対かかりません。1970'〜80年代の曲ばかりだからかな(笑)。

河野弘幸さん(研修生:神戸医療福祉専門学校生)

メンバーは気さくな人たちでした

夏休みを利用して「麦の郷」に研修に来ています。僕は初めて障害者の方と接したんですが、来る前の印象とは全然違って、皆さんものすごく気さくに話しかけてくれて、普通という言い方は変ですが・・・びっくりしました。将来はPSWの資格を取って働きたいと思います。