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ホテル業を通じた就労支援プログラム
『ハートピアきつれ川』(栃木県さくら市)

良泉湧く保養地として知られる栃木県さくら市にあるハートピアきつれ川は、ホテル(保養施設)を中心に授産施設、地域生活支援センター、グループホームを併せ持つ精神障がい者の社会復帰施設です。世界でも類を見ない精神障がい者が働くホテル「ハートピアきつれ川」におじゃましました。

1.就労訓練があったからこそ今の自分がある

精神障害を抱えながら働く??統合失調症患者さんの社会復帰の形はさまざまだが、なかでも就労はとりわけ難しいとされている。ハートピアきつれ川は、早くからこの問題に取り組み、精神障がい者の就労に道を拓いた、いわばパイオニア的な施設として知られる。

ハートピアきつれ川は、精神障がい者の社会復帰を促す授産事業を実施するとともに、一般の人に保養サービスを提供することを目的に、全国精神障がい者家族会連合会(全家連)により作られた施設だ。ここでは2年間にわたる就労支援プログラムがあり、地元栃木県だけでなく、全国から訓練生が集まっている。メンバーは最初の6カ月の合同訓練を経たのちに、ホテル科、清掃環境整備科、調理配膳科の3つの専門コースに分かれて個別訓練を行う。

図 就労支援プログラムの年間スケジュールと就労までの流れ

ハートピアきつれ川での就労支援プログラムを終了した卒業生たちは、ハートピアきつれ川にそのまま雇用(内部就労)されたり、一般の事業所に雇用(外部就労)されたりとさまざまな進路を選ぶ。進路は異なっても、卒業生たちが皆口にするのは、「ハートピアきつれ川での就労訓練があったからこそ今の自分がある」という言葉。
プログラム卒業後にハートピアきつれ川に雇用され、今ではレストラン給仕のエースとして活躍する金児輝明さんは、当時をこう振り返る。

金児 輝明さん(ハートピアきつれ川パート勤務)

統合失調症の薬をたくさん飲んでいたせいもありますが、ここに来た当初は体がフラフラして作業がつらかったですね。でもここでの接客業務で鍛えられたからこそ今の自分があるのだと思います。
人とやりとりすることが今まで少なかったので、自分もプログラム期間中には接客業務がしんどく感じたり、忙しいと体も神経も疲れ果てたりするような大変な思いをしてきたので、後輩たちの苦労やつらさがわかります。困っているかなと思うときにはいろいろとアドバイスしたりしています。
ここでの2年間のプログラムを経ればどこにいっても十分に通用する対人関係能力や強い精神力が身に付くと思うので、つらいとは思うけど受講生たちには最後まで頑張ってほしいですね。

もともと対人恐怖症が強かった金児さんだが、あえて対人恐怖症を克服するために接客業務がメインのホテル科を専攻したという。身体を鍛えるために15Kg の鉄アレイをカバンに入れて1時間かけて歩いてデイケアに通ったりするような努力家であった金児さん。困難なことがあってもそれを受け止めて克服していこうとするその芯の強さはこのハートピアきつれ川での研修でさらに鍛えられた。ハートピアきつれ川の職員である桶谷肇氏は金児さんの当時の様子と就労プログラムの重要性をこう語る。

桶谷 肇氏(ハートピアきつれ川 次長)

金児くんはここに来た当初は体力の面や対人関係の面でいろいろと苦労していましたが、本人の努力があってプログラム期間中に本当に成長したと思います。
『ホテルは一般社会の縮図』と言われますが、ホテル業には就労に必要なさまざまな業務が凝縮しています。ハートピアきつれ川で就労支援プログラムを実施している意義はそこにあります。接客サービスをこなす過程で対人関係に自信がもてるようになり、調理配膳やホテル内の清掃・施設維持業務では体力と精神力がつくというように、メンバーは着実に就労に必要な力を身につけていきます。ハートピアきつれ川では障害の程度に応じて仕事を選ぶことができるようになっていますが、ここで働くことができれば、おそらくどのような職場でも働くことができると思います。

単なる訓練の場としてではなく、お客さんからサービスに対する対価を受け取るという緊張感を伴った仕事として学ぶからこそ就労に対する当事者の意識が高まるのだと桶谷氏はいう。「そうした実践の緊張感ある環境で学ぶことで訓練の真剣さは増しますし、仕事の理解度や呑み込みが違ってくるのです」と桶谷氏。実際の仕事を通じた訓練にこそ意義があると力説する。
ハートピアきつれ川には入浴後にくつろぐことのできる湯あがりサロンがあり、地元の人や遠方からのリピーターで賑う。サロンのウェイターとしてアルバイト勤務する野口範行さんも就労支援プログラムの受講を通じた心境の変化と人間的な部分での成長を語ってくれた。

野口 範行さん(ハートピアきつれ川アルバイト勤務)

ここに来る前は目的意識もなく毎日漫然と過ごしていましたが、ここでの研修プログラムを通じて社会復帰につながるよう頑張ろうと思えるようになりました。両親にもいろいろ心配をかけたので、これからは一生懸命頑張って安心させてあげたいですね。

野口さんは後輩の指導にも熱心で、持ち前の明るいキャラクターで周囲からの人望も厚い。このようにハートピアきつれ川では卒業生たちが研修生の面倒をみたり相談に乗ったりといったさまざまなフォローを行うが、それも自らが研修中に苦労した経験があってこそ。研修生たちもそんな先輩たちに将来の自分の姿を重ねて熱心に訓練に取り組んでいる。当事者同士の支え合いもハートピアきつれ川の大きな力だ。

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