職場におけるメンタルヘルスケア -事業者・上司の方へ-

メンタルヘルスケアの進め方

(4)職場復帰における支援

メンタルヘルスの問題で休業中の人が円滑に職場復帰するためには、休業から復職までの標準的な道筋や対応する手順、内容や関係者の役割などを示したルール「職場復帰支援プログラム」の策定や関連規定の整備が必要となります。「職場復帰支援プログラム」は衛生委員会での審議や産業医の助言をもとに個々の事業場の実態に合ったものを策定します。なお、プログラムの作り方がわからない場合には「産業保健総合支援センター」で専門家の支援を受けることができますので相談してみましょう。 厚生労働省の手引*による職場復帰支援の流れは下記の通りです。

 厚生労働省 独立行政法人労働者健康福祉機構『改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引』、2013年

[第1ステップ 病気休業開始および休業中のケア]

主治医の診断書(病気休業診断書)が提出されたら
管理監督者(上司)は人事労務管理スタッフや事業場内産業保健スタッフにそのことを連絡し、休業する方に必要な事務手続きや職場復帰支援の手順について説明します。
休業する方は、経済的な不安や復職できるかといった不安を抱きやすいものです。安心して療養に専念できるよう、特に次のような項目について情報提供するとよいでしょう。

休業中の方に連絡をとるタイミング
あらかじめ職場復帰支援プログラム策定の際に検討しておくとよいでしょう。休業中に連絡すると「焦らせてしまうのではないか」と考えがちですが、会社が回復をじっくり待っていることを伝え、孤独や不安を感じさせないようにすることが大切です。繰り返し、復職に向けて支援する旨を伝えましょう。担当窓口は産業保健スタッフや衛生管理者、上司など一人に絞って、連絡は1カ月に1回程度を目安とします。必ず、次回の連絡をいつにするか約束しておきましょう。電話応対が難しい場合にはメールでやりとりする方法もあります。

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休業期間中の産業医面談

私傷病、つまり従業員自身の健康上の理由から休業している場合、療養に専念してもらい回復を待つ、というスタンスが一般的です。しかし、実際には病状に職場の話題が関連していることも多く、安全配慮義務の観点や復職時での対応など考えあわせると、なるべく差し障りのない方法やタイミングで療養の現状を把握しておくことをお勧めします。
 たとえば、休業開始時には病状が不安定で理解力、判断力、記憶力なども弱っていることが多く、見通しも立ちにくいため、休業から職場復帰までの手順や休業中の心得などを記載した書面を渡しておきます。そして、休業が3カ月以上長引くようであれば、心身の状態、療養生活の様子、主治医の指示、服薬、仕事への関心、職場とのコンタクトの可否、産業医面談の可否、復帰準備の意思確認などを盛り込んだ人事部長、産業医宛の「病状報告書」を提出してもらう方法があります。
 このような流れで本人と職場とのコミュニケーションが安定している場合、1. 本人から産業医面談の希望がある、2. 職場復帰の意思が表明された、3. 主治医から職場復帰の準備開始、もしくは職場復帰可能の診断書が提出された、などが休業中の産業医面談の契機となります。
 しかし、職場とのコミュニケーションが途絶えがちで不安定な場合は、休業期間満了前6カ月時点で病状や職場復帰意思確認などの目的で面談を設定し、もし面談できれば主治医との連携も視野に入れた取り組みを用意しておくことが必要となります。

[第2ステップ 主治医による職場復帰可能の判断]

休業中の方から職場復帰の意思が伝えられたら
職場復帰が可能なのか、主治医の診断書(復職診断書)を提出してもらいます。診断書には就業上の配慮について主治医の具体的な意見も記載してもらうとよいでしょう。
ただし、主治医による判断は日常生活における病状の回復具合に基づいていることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力の十分な回復を意味しているわけではありません。あらかじめ主治医に求められる業務遂行能力や社内勤務制度に関する情報を提供しておき、その上で復職の可否を判断してもらうとよいでしょう。主治医と連携する場合には、事前に本人に説明して同意を得ることが大切です。
提出された診断書の内容については、産業医が精査した上で、とるべき判断について意見を述べます。

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主治医と産業医の復職可能判断の違い

 これまで、職場の産業医として主治医発行の復職可能の診断書を1,000枚以上見てきましたが、8割以上の診断書には復職可能と判断した根拠は書いてありませんでした。わずかに記載されていたのは、「本人の復職の意思を確認した」「病状が改善した」という類の記述でした。
 主治医に診断書発行の経緯を尋ねると、「本人が自己判断でもう大丈夫と言ったから」「日常生活や病状が安定しているから」、まれに「通勤練習、図書館通いがうまくいっているから」との回答でした。さらには、主治医が職場復帰可能と判断しているのになぜ復帰させないのか、と主治医が不満を述べるケースもありました。
 しかし、仕事を命じて健康上の問題はないか、本人、主治医、産業医らの意見をもとに職場が復職可能の最終判断をしなければなりません。そこで産業医は、通勤、職場の業務負担、業務環境と健康レベルのバランスは取れているか、復職当初の業務負担軽減措置と気力、体力、業務力などが調整可能なレベルに達しているか、を見極めなければなりません。
 この見極めのために復職準備プログラムを実施して実際の行動、生活、心理的安定を確認します。とはいえ、復職前に本格的に業務に従事させることは休業の範囲を超えてしまうため、限定的とならざるを得ません。
 また、休業の契機が職務内容や人間関係に関連する場合、復帰先の業務や配置の調整が必要です。それぞれの課題を健康面、労務面から総合的に調整判断して復職可能の判断を進めていきます。

[第3ステップ 職場復帰の可否判断および職場復帰支援プランの作成]

職場復帰の情報収集
本人に職場復帰の意志を確認したり、本人の同意を得た上で産業医が主治医から情報収集したり、あるいは職場環境を評価したり、さまざまな視点からの情報を収集して事業場内産業保健スタッフが中心となって判断します。
職場復帰が可能と判断された場合、安全でスムーズな職場復帰を支援するため、復帰日や就業上の配慮、人事労務管理上の対応(配置転換や移動の必要性など)、産業医による医学的見地からの意見などを検討し、「職場復帰支援プラン」を作成します。
産業医が選定されていない労働者数50人未満の小規模事業場では、産業保健総合支援センターの地域窓口や労災病院勤務者メンタルヘルスセンターなどの事業場外資源を活用するとよいでしょう。

[第4ステップ 最終的な職場復帰の決定]

第3ステップを踏まえ、事業者による職場復帰の最終的な決定を行います。職場復帰の可否決定は働く人にとって大変重要なものです。私法(契約法)上の制約を受けることにも留意して、社内手続きに従って適正に行わなければなりません。

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産業医と主治医の連携の重要性

 産業医にとって、職場での就業上の配慮を検討することは大切なテーマです。しかし、肝心の検討材料は職場から上がってきた情報と本人からのヒアリングや診断書に限られています。
 他方、精神科主治医には職場の情報は本人から得られるものに限られ、概して不足がちです。しかも、それらは本人の主観的見解です。本人の病状によっては、その主観のなかに本人の解釈、理解、受け止めが入っており、上司や同僚、人事など周囲の見立てと乖離があることも少なくありません。どちらが正しいかどうかではなく、人間理解には情報の質、視点の違いを網羅して総合的に判断していくことがとても重要です。
 さらに、最近の精神科主治医の現場では難易度の高い例が多くあり、診断、ケアなどの面で質の高い情報があると大変助かります。そこで、産業医と主治医間は当初は情報遮断の状態ですが、早い時期から情報の連絡、連携があると診断の精度向上、治療期間の短縮のほか、職場の配慮も的確となるなど、多くのメリットが生れます。
 したがって、不調事例を多く抱える職場であれば、産業医経験のある精神科医のサポートを得ることはメリットが大きいと言えます。

[第5ステップ 職場復帰後のフォローアップ]

職場復帰後の評価・確認

メンタルヘルスの問題にはさまざまな要因が関わっているため、なかなかプラン通りに職場復帰が進まないこともあります。職場復帰後は経過観察とプランの実施状況の確認・評価・見直しを行うとともに、主治医と連携を図りながら再燃・再発に努めることが大切です。

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職場復帰後に注意すべきポイントと産業医の役割

 休業期間が半年以上であった場合は、復職後の配属、業務負担などの就業上の配慮を特に慎重に行う必要があります。
 長期間の休業後、本人の病状は安定しているようにうかがえても、業務の慣れや勘などは弱まり、特に持久力、応用力、創造性などが低下し、緊張して疲れやすい傾向が多くみられます。
 また、休職前と職場の人や環境、業務の流れが変わっていたり、パソコンの中身も変わっていたり、本人は職場再適応へ向けて様々な課題をこなさねばなりません。これらがうまくいかないと再発の可能性も高まります。
 したがって、産業医からは就業上の措置として、①業務時間は平常勤務内のミニマムなレベル、②出張、外出、土日、シフト勤務を避ける、③作業の進め方は並列でなく直列へ、④現状の力量に即して難易度を徐々に調整する、⑤上司、人事同席で定期的な産業医面談、などを柱とした業務負担軽減措置を当面3カ月間遵守するよう指示します。
 さらに、就業が不安定な場合、特に月当たり5日以上の欠勤が認められた場合は就業継続の可否を検討し問題解決へ向けたサポートを行います。

メンタルヘルスケアについてさらに詳しく知りたい方は、厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」を参照ください。

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フォローアップ期間

 最も頻度の多い「うつ病」ですが、病状が安定してから3年間は服薬した方が良いと主張する専門医も多く、外来通院の通算期間は年単位となることもまれではありません。ケアの面では気長に付き合う心構えが基本となります。
 健康上の問題を抱えていても就業への影響が認められない場合、つまり、外来通院を継続していても服用薬剤がいわゆる維持量となり、かつ3カ月間以上安定した勤怠となってきた場合は安定就労を達成したと判断し、フォローアップをひとまず終了する職場が多いようです。
 ただし、服用薬、病名などからみた病状の重さ、休業を繰り返してきた経緯、本人がフォローを希望している場合などは3カ月から半年間隔で産業医面談を繰り返し、お互いのパイプを確かめながら安定就労へのサポートを継続している例も少なくありません。個々の事情に応じて丁寧にサポートに取り組んでいく方針が基本的に重要といえます。

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