ここちいい生き方がある

社団法人『やどかりの里』(埼玉県さいたま市)

4.「画廊喫茶・ルポーズ」(作業所)

ドアを開けるとコーヒーの香りが漂う喫茶店が、「やどかりの里」の作業所のひとつです。1997年にオープンして以来、接客や調理、メニューづくりなど、全てメンバーの手で行っています。内職作業が苦手なメンバーを中心に、メンバーと職員が資金調達から返済計画まで一緒に考え、ともに600万円の借金責任を負って開店。

「メンバーもある種の責任を負うことで、生きていく力が養われます」(大澤さん)。
「コーヒー1杯300円」という価格設定は、「“福祉の店”に甘んじず、一人前の仕事をする」という意気込みの表れだそう。
ていねいに淹れるコーヒーのおいしさに、福祉施設とは全く知らずに通う一般の常連さんもいるとか。
ちなみに借金は、1年後に見事!返済完了しました。
「やどかりの里」の中では、若いメンバーがアルバイト感覚で気軽に働く場所となっています。

加藤蔵行さん

コーヒーは僕が淹れるよ

10代で発症し、38年間の入院生活を経験した加藤さん。周囲の皆が「蔵さん」と呼んで慕う、喫茶「ルポーズ」のマスターです。
「退院できた時は落ち込んでいて、生きたいのが半分、死にたいのが半分だったんだよね。「やどかりの里」に来たら、とても親切にしてもらい、幸せだったな。」
発症前に賄いの仕事をしていた加藤さんは、入院中、開放病棟で院内喫茶を任されていました。退院直後は作業所で内職仕事をしましたが、苦手の内職仕事にはなじめず、職員の助言もあって作業所員の賄いに携わり、次いで喫茶「ルポーズ」開店に参画しました。
「こんなに明るい店ができるとは思わなかった。あえて“福祉の店”にしなかったので、仕事をしたという気持ちが持てるね。」
「ルポーズ」で自慢のコーヒーを淹れ、仕事のない日は「やどかりの里」の地域生活支援センターで好きなギターを弾く。加藤さんの地域生活はあくまでもマイペースです。

吉江まなみさん

おいしい、って言ってもらえるのが嬉しい

15歳で発症、以来長い入院・通院生活を経験している吉江さん。
「ルポーズ」ではベテランスタッフとして働いています。
「ここは雰囲気がよくて、わからないことは職員が手取り足取り教えてくれる。民間で働くのはきついけど、病気のことをわかってくれているから体調に合わせて働きやすい。この店には普通のお客様も来てくれるんですが“おいしいよ”なんて言ってもらえると嬉しいですね。賃金は高くないけれど、働く喜びがあります。」
「料理はあまり得意でないけれど、掃除は好き」という吉江さん。お店の床やトイレをぴかぴかに磨きあげていた姿が印象的でした。

大澤美紀さん

“作業所”のイメージが変わりました

「何にもない空箱の状態から店の名前やメニューのような細かいことまで全てメンバーとみんなで話し合って作りました。コーヒーの値段を決めるにも、慈善事業ではない、自分たちの働く場所としてちゃんとした営利目的の事業をやろうと。一人前の設備で、一人前の仕事ができれば一人前の料金をいただいていいじゃないかと。喫茶の仕事は、お客さんの声が直接聞けて評価が得られる良さがあります。」
「内職仕事の作業所ばかりでは、適応しない人もいます。精神障がい者に喫茶のような接客業なんて、というイメージもあるようですが、それは人それぞれ。健常者も同じですよね。この店ができて“作業所”のイメージがずいぶん変わったと思います。体調のコントロールを優先しながらリスクを負わず、明るくバイトができる場所、という感じかな。」